メルカトル。短編小説に向く探偵、と自ら豪語するメルカトル。夏と冬のソナタであの演出は、やっぱり出てきた瞬間にすべての謎を解いてしまうからなんですな。そんなわけで、短編集です。
しょっぱなの『遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる』がなんといっても傑作。こういうのを期待してしまう、麻耶さんにはやっぱり。
メルカトルの鬼畜っぷりと、それに振り回される美袋の狂った関係がダークな世界観につつまれて、なんというか短編集のくせに一種異様な空気に包まれている。傑作。
文章もかなり読みやすくなっているので、平気だと思う。
エヴァのアスカの様なツンデレの美少女探偵と、ダメな時のシンジみたいな自殺願望のある主人公のラブストーリーが展開……?(笑)。真面目な読者は怒り出す様な結末ですが、私は好きですね。作者の狙いは明確ですが、説明するとネタバレになるので、出来ません。リアリティはゼロですが、ギャグマンガを読む様に気楽に行きましょう!所謂バカミスの最高傑作ではないでしょうか?ありきたりのミステリーに満足出来なくなった作者が放つ怒涛の一撃、受けて立ちましょう(笑)!それにしてもこの作者、いろんな意味で問題作が多いですね。貴重な存在ではないでしょうか?評価が分かれるのは作家の宿命です。
あらすじ
事件現場に颯爽と現れ、警察を顎で使い事件を解決する貴族探偵。
ただし推理などという〈雑事〉はすべて、使用人任せてしまい
探偵は事件の渦中にいる美女に声をかけ・・・
感想
探偵の定義は人それぞれで十人十色。
その中の一つに探偵とは「事件を解体する者」
と定義した人がいました(誰かは忘れましたが・・・)
なら、推理なんてものは解体のための手段にすぎず
程度の差こそあれ、どんな手段を用いても問題ないはず?
今作で登場する探偵は、自らの特権を活用し警察から情報を得て
しもべ達に推理をさせ、見事に事件を解体します。
その姿は可笑しくもあり、今までにあれやこれやで
ミステリーにおける探偵像に揺さぶりをかけてきた作者の
企てが炸裂します。
ところで話は脱線しますが、巨万の富を得た経営者の逸話で
専門家と呼ばれる人種に詰め寄られた際の話がありました。
『こんな問題を知っていますか?』
『いえ、知りません」
『あなたはなんて無知な人だ。こんな人が企業のトップですか』
そこで経営者は電話をかけ、受話器を専門家に手渡します。
『私のコンサルタントがその問いに答えてくれるでしょう』
高貴な趣味で探偵を行う貴族と、経営者では立場が違いすが
ちょっとした共通点があり、面白いと思いました。
読んでからの一言
探偵なんてものは、趣味でやるくらいでちょうどなんでしょう。
2006年度版このミス10 5位。
2005年文春ミステリーベスト10は選外。
「かつて子供だったあなたと少年少女のための」と銘打たれたシリーズの一作であるが、まず、このミスの選者の人たちはよく、こういった児童向けの本まで目を向けているものだと感心させられた。
作品の装てんと、小学4年生が語るという本文の内容は一見マイルドであるが、このストーリー展開はかなりシビアであり、特に後半からラストの「怖さ」は大人でないと理解できないと思う。
ウチの近所の図書館では児童書のところにおいてあるが、ラストの意味がわかる子供にとってはかなり衝撃的な作品になるだろう。
相変わらずのメルカトル、美袋の掛け合いが面白い。普通に読んでいて面白いというのも、存外大事なことだと私は思う。
内容だが、この五作はすべて同様の趣向が凝らされている。この趣向については前例はあるかもしれないが、ここまで徹底して様々な手法と実験精神で取り組んだのは麻耶が初めてだろう。この作家、とにかく独自の問題意識を持ち、非常に高度な論理構築の業を以てそれを支える。その問題意識を共有でき、論理の美しさを正当に評価できる読者、所謂マニアこそがどっぷりとはまってしまう所以だ。
「死人を起こす」で若干不満に思ったものの、全体の趣向から見れば妥当なラストか。何より面白かったのが「収束」。事件自体は単純なものなのに対し、途中まで著者の意図がまったくわからない。Who done itだのWhat done itだのそういう括りですら、もはやない。やはり問題意識を持たなければ真の創造はできないのだと身につまされる思いだった。そして単純にラストのどんでん返しの鋭さも一番だった。残りの三作も非常に個性的で粒ぞろい、独創的で意外なラストととても面白いのだが、欲を言えば若干問題意識が先行しすぎ、自縄自縛となった感もあり、評価が別れるところだろう。著者の作品の中でも実験要素が強い短編集となっている。
いずれにせよこの小品集には事件解決に伴う爽快感など欠片もないので、そういったものをミステリに期待される方は手に取らない方が懸命かと。
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