三浦哲郎が「帰郷」を褒め、夏目漱石が「首飾り」を批判したモーパッサン。
本短編集は珠玉の名作揃い、訳文も素晴らしい。
短編作家モーパッサンの魅力は語りにある。
題材は現在ではありふれたものかもしれないが、語り口は現在でも超一流、人間観も素晴らしい。
「椅子直しの女」「シモンのパパ」「小作人」などは実に実に素晴らしい。
普仏戦争にてフランスが敗れ、逃亡途中のブルジョア達の中に、(やんごとなき上流の人々にとっては)場違いな、超ポチャ娼婦が混じっていた。男たちからは好奇、女たちからは侮蔑の視線を浴びる彼女『ブール・ド・シュイフ(おでぶちゃん)』。しかし、馬車の中での強者は、図らずも、たっぷりな弁当を用意していた彼女(さすがポチャ)。食事の無い強行軍にイラついていた人々も、親切で、気のいい彼女のおすそ分けをいただいた瞬間なごみ、ひといきに打ち解ける。ところが、彼女の食糧を必要としない宿に到着し、今度は逆に彼女の存在がお荷物になったときに、やんごとなき人々のとった行動は・・・。敗戦という状況を効果的には生かしてはいるけれども、戦争がどうとかという話ではない。いつでも、人間の集団が腐臭を発し始めたときに起こりえる話だ。
純真な貴族の女の抱いていた輝かしい人生の希望が、
度重なる裏切りと挫折に無残にも打ち砕かれていく一生を描いた受難劇。
だが、これは感動的な悲劇ではなく「よくある話」に過ぎないのだ。
超越的な視点を一切持たないヒロインは、たった一つの自分の人生の中に埋没して生きている。
それゆえに数々の裏切りや幻滅をいちいち真に受けて打ちひしがれる。
夢見ていた「私の」人生の輝かしさが失われ、「私の」人生が不幸に染まるのを彼女は嘆く。
しかし、それは数ある人生のうちありがちな一つに過ぎないのである。
どこまでも環境に埋没して自分の人生を哀れむヒロインと、
庶民として人生の感傷に浸ることなく逞しく生きる女中との対比が鮮やかだ。
人の一生というものの物悲しさを、優しさを感じさせながらもアイロニカルに描いた作品。
決してよくできた映画ではないと思う。だが悪くないし、好きである。
ただオスとメスの描写をウェットさを排除して描く手法は正解だった。少なくとも性行為のオンパレードよりは。
大学時代に観て、なんか引っかかっている作品。今ではさほど特別な感情は沸かないが、それでも心の片隅に残っている。
値段が高いですね。だから気軽にはお勧めできない。まあ、値段以上の価値はあると思う。
モノクロ映画である。そういえばスコセッシ「シャイン・ア・ライト」も一部モノクロだった。あの人はゴダール好きだからねえ。
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