静かなる夜明け―竹内てるよ詩文集
巻末に「本書は、竹内てるよさんの『生命の歌』 (第一書房版、一九四一年。渓文社版、一九八三年)、『竹内てるよ作品集』(全四巻、宝文社、一九五二年)などをはじめとする著書から、著作権継承者の諒承を得て、月曜社編集部が再編集したものです。その際、旧かな、旧漢字は、新かな、新漢字にあらためました。」とあります。帯の背には「代表作六二編を収録」とあります。
さすがにグッとくるものが多いです。ちょっと引用。「沈丁花」から。119ページ。
星の美しい夜更けに
熱に苦しくて 水をくみにおきると
闇の中にかすかに 花みじろぎして
沈丁花がかおっている
星の香りかと思う
もう1つ引用。「夕ぐれ」から。133ページ。
この夕ぐれは
なんと静かな夕ぐれであろう
すべてのものにどんな境涯があろうと
祝福が手をのべて その上をさわるような
深い しみじみとした 夕ぐれである
たとえば,この夕ぐれの平安を感じる心を竹内さんは過酷な生涯のどこで身につけられたんですかねえ。友人の多くの芸術家からですかねえ。『海のオルゴール 子にささげる愛と詩』のように,大部な書籍ではないので,手に取りやすいところに置いておきたい本です。凹んだときにちょっと目につくだけで勇気がわいてくるかもしれません。
しっとりとした,いい装丁です。カバー・オビ・本文用紙の選択もよいと思います。シンプルなように見えて,カバーは4色(もしかすると書名の青は特色?),オビは裏が青(特色?)なので3色使用ですかね。秘かに贅沢。見返しは薄紫ぐらいがよかったようにも思いますがいかがでしょうか? 装丁は大橋泉之さん。表紙に折りやすいように折り目がついているのが親切です。
海のオルゴール―子にささげる愛と詩
名著です。竹内てるよさんの厳しい生涯(生まれたときからほとんど幸せだったことがないと思われるぐらいです)が語られ,その間に素晴らしい詩が掲載されています。結婚して産んだ子は顔を見ることもないまま里子に出され,一人孤独に闘病していた頃の「風」という詩の一節。51ページ。
はかなく今日もくれしかど
われ ひそかに 信ず 人生は
まだもつと 美しきところなるべし
美智子皇后が外国でのスピーチで自ら一節を英訳して紹介された「頬」という詩も載っています。冒頭だけ…。57ページ。
生れて何も知らぬ 吾子の頬に
母よ 絶望の涙を落とすな
未来のある子どもに悲しい気持ちを伝えるな…ということです。こういう覚悟を,母親というのはしているものなんですかねえ。息子さんと生き別れになった後,息子さんの誕生日にはこんな詩(「誕生の日」)も読まれています。またまた一部だけ引用します。75ページ。
一の非凡でなくともよい
千の平凡で その一生をゆかれよ
平凡でない生活をせざるを得なかった竹内さんの,このお言葉は実に重いですねえ。竹内さんは大変な苦労をされて,後年やくざになって拘置所に入っていた息子さんを引き取り一緒に生活を始めるのですが,息子さんは34歳で亡くなってしまいます。本当にお気の毒で胸が苦しくなりますが,そうした折々に語られた言葉や詩が満載で,心に深く浸みてきます。涙も出ますが勇気も湧いてきます。
いのち新し―魂の詩人・竹内てるよの遺作
竹内てるよ先生の最後の作品、ご苦労な一生を送られ、
私の母の年代だけに涙して読ませていただきました。
心から供養する、共に生活する,というところに感動しました。
私もこれからの人生頑張っていきます。
わが子の頬に―魂の詩人・竹内てるよの生涯
冒頭に「本書は、旧版タイトル『因縁霊の不思議』を改題復刻したものです」とあります。2002年9月下旬の国際児童図書評議会(IBBY)創立50周年記念大会で美智子皇后が英語で祝辞を述べられた際に竹内てるよさんの「頬」の一節を紹介されたのを受けて,昭和53年(1978年)8月初版の本を2002年11月に急遽強引に「改題」して,本文はそのままで出版されたんですな。
「まえがき」は以下だけです。
この書を不幸なりし私の生母に捧げる。
私は、何の故にかインカの神よりつかわされた。そして、死者の因縁と取り組むことこそ、私の使命であり、私は老年を迎えてその使命に立つ。
医学第一、因縁第二。人間の全き生涯を守らんがために、私をして生命を献ぜしめ、その苦悩のために私を舞はしめよ。
死者、この生きたるもののために働かしめよ。ふるさと、あの岩の洞にかえる日まで−−光の明るい国に……。(1ページ)
当然ですが,本書は旧タイトルどおり,中身は因縁とか霊に関する話がほとんどでして,竹内てるよさんは,晩年はその方面の仕事に没頭されていた様子がわかります。「頬」も掲載されてはおりますが,「竹内てるよの生涯」は明らかに言いすぎです。本書の内容を踏まえて言いますと後世によくないことが起きる「バチ当たり」な改題でありましょう。とはいえ,こと竹内さんに限っては,何でも許してくれそうですので大丈夫でしょう。(笑)
さて,残念ながら私は因縁や霊に関心がありません(本書に掲載された内容は,話としては面白いです)が,1つ気に入る詩が掲載されていました。ちょっと引用。「女性の幸」という作品。37〜38ページ。
こころ静やかに
幼きものに乳をあたふる
そのひとときの 深き女性の幸
(中略)
つゆほども
よこしまなる思いを許すことなく
今日の母の清浄を 遠き未来につなぐ
さあれ これにかわるべき偉業女性になし
仕事バリバリの女性やお乳の出ない女性,未婚の方などいろいろいらっしゃるので,こう思い切り断定してしまう詩が現在すんなり受け入れられるとは思えませんが,男性にはありえない幸せ,男性にはなしえない偉業ではあります。この詩に出会えただけでも本書を読んでよかったと思います。