雪沼とその周辺 (新潮文庫)
堀江氏の作品は初めて読みました。『熊の敷石』という本を前から見ていて、変な題名だなあと思っていました。『雪沼とその周辺』という題名も、まるで何かの調査書の題目か、でなければ、エッセイを思わせますね。ところが、内容はすごくいいんです。まあ個人的な好みの問題かもしれないけど、連作短編の形で6編の話が互いにゆるく繋がりあいながら、進んでいきます。雪沼という山あいの小さな町に暮らす人々とそこで起こる静かな出来事。でも暗くはない。懐かしいような、何か臭いというか香りがする感じ。古くもない。人々の、息遣いが感じられて、ほっとする。好きなのは「スタンス・ドット」の閉店することになったボーリング場の主人の話と、「イラクサの庭」の女主人と、最後の「緩斜面」。特に、「緩斜面」でたこを飛ばして遊ぶ場面で、「イラクサの庭」にでてくるフランス料理屋が下の方に見えたりするところは、映像が目に浮かぶようで、雰囲気たっぷりです。読了後は感嘆のため息でした。
振り子で言葉を探るように
堀江さんの書評を通して出会った作家は、チェーホフ、ル・クレジオ、須賀敦子、池澤夏樹、小沼丹、山田稔、吉田秀和などなど数知れず。ある時は雑誌の掲載、またある時は月間誌上で。あとがきにもありますように、「書評集の名目で本をつくるのは「本の音」に次いで今回が二度目」だそうです。極上の書評集に再会できて、夜の夜長の楽しみがまた増えました。新たなる出会いが始まりそうです。