セメント樽の中の手紙 (角川文庫)
徹底して悲惨な1920年代30年代の底辺労働者の生活の記録・・しかしプロレタリア文学と呼ばれた小説群のうちのいくつかが今なお文学として読むに値するとしたら、それは底辺の生活に現れる人間性を徹底的に観察してやろうという作家の執念にも似た気迫の故であろう。工場労働者がついには自分が作っているセメントと一体化してしまうという「セメント・・・」はそんな一つといえるだろうが、ここでは悲惨が極に達してある種のグロテスクユーモアになっている。恋人を失った娘が「あの人は立派なセメントになったかしら」と心配するとは!人間性の喪失があのぐにゃりとしたセメントの質感とともに不気味に具象化されている。これはモダン・ホラーにも通じる感覚だ。怖いですよ。