ドグラ・マグラ
日本三大奇書の中の一冊とされ、「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」と言われますが、もちろん、それはキャッチコピーであって、本当に異常をきたすわけではありません。
ただ、精神科の中で「狂気」の問題が繰り返し論じられている作品なので、精神的に不安定な時は、読まない方がよいと思います。
万人受けするような類の作品ではありませんが、一度その魔力に取りつかれたら最後、何度も再読してしまう麻薬的な作品だと思います。
殺人事件が起き、その犯人をめぐる問題は確かに重要ですが、一方で、普通の推理小説の域を完全に脱しています。
九州帝国大学の精神病棟にいる主人公が記憶を失っており、主人公=読者は、自分が何者かを探っていきます。
九大医学部の正木・若林両教授が、主人公=読者に対して、相対立する説明を試みてくるので、主人公=読者は混乱していきます。
両教授の説明の問題だけではなく、そもそも時間軸すらも不安定です。
また、「地の文」だけでなく、精神医学にかかわる、祭文、インタビュー記事、学術論文、など様々な文章が次から次と登場し、主人公=読者の混乱に拍車をかけます。
主人公=読者の存在の根拠が、がらがらと崩れ去り、様々な解釈が読者に委ねられます。
角川文庫版下巻の解説で、精神科医で小説家・評論家の、「なだいなだ」氏が、「この小説を読んで、誰一人わかった、といいきれるものはいないだろう」、「誰もが、わかったような気がするのが、せいぜいだろうと思う」と書いています。
文字通りの奇書だと思います。
1935年発表の作品ながら、文章は大変に読みやすく、私は読みだしたら止まらなくなりました。
残りの日本三大奇書は、『黒死館殺人事件』、『虚無への供物』ですが、『黒死館殺人事件』は、本書と同じように電子書籍で手に入ります。興味をお持ちの方はご検索ください。
追記
最近知ったのですが、有名な漫画家の安野モヨコさんのペンネームの由来は、『ドグラ・マグラ』の登場人物「呉モヨ子」だそうです。
21世紀に活躍する創作者にも、『ドグラ・マグラ』が影響を与えているわけですから、「『ドグラ・マグラ』恐るべし」という感じがします。
火星の女 (夢野久作の少女地獄) [DVD]
夢野久作原作の「少女地獄」だと聞いて購入。
原作(とも異なる内容だが)を知らないと、全然物語的にわからないのではないかと思った。
役者が少女ではないのと、成人向けなのは出してる会社のせいか・・・
原作のドロドロ感は多少は感じられた。
知らない人が見たら、やはり後味の悪い気持ち悪さは残ったと思う。
ビデオDVD化していない「瓶詰めの地獄」(内容がだいぶ異なるようだが)
こちらも気になるところ。
ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)
これは食べ物でいうならば、『珍味』なのです。
巧い文章が読みたい、いい話が聞きたい、感動したい、涙を流したい、知識が欲しいなどと云う人、金を払ったんだから、それなりのものを欲しいと云う人が読むべきものではない。
この作品を読んで「これはマズイ」「面白くない」など云う人がいても、何も驚きはしないし「これは絶対面白いから読め」とも勧めない。
そもそも『ドグラ・マグラ』というタイトルが良く出来ているのではないか。ここで興味を示すか、示さないかで、すでにふるいにかけられているのである。面白い本はたくさんある。その中で『ドグラ・マグラ』というタイトルの妖しい本を手に取るか取らないか。
これをミステリや推理小説として読む人がいますが、それはオススメしない。オチが読めたなどということは、何の意味もないことなのです。これに関してというより、久作の作品に対しては、筋の通ったものを求めることに意味はありません。
夢野久作はこのような文体でしか物が書けない人では決してない。当たり前だが狂人ではない。それは理解しておかなければいけない。久作にも、もっと読み易いものはいくらでもある。というより「ドグラ・マグラ」が特に読みにくい種類のものなのだから。
一見まわりくどいような、どろくさいような、間抜けな文体は『ドグラ・マグラ]の世界観に合わせたものである。あの独特な倦怠感のループはこの本でしか、おそらく味わえない。
少女地獄
瓶詰地獄、キチガイ地獄に並ぶQ作地獄シリーズです。
「狂」の領域に足を踏み入れざるをえなくなった3人の少女のお話。短編3本です。
どの話も、事件の主人公はうら若き乙女です。
「いたいけのない少女」が、いたいけないが故に追い詰められるお話。
ドグラマグラより全然読みやすいので、Q作の入門にはちょうど良いと思います。
ただ、なんというか、僕としてはちょっと物足りない。
あえて、寿司に例えて言うならば、
いいネタ揃ってるし、腕も確かなんだけど、ちょっと、ワサビが切れてるんですよ〜
と言いながら、ネタとシャリの上下を逆にして出してきた
みたいな感じといいましょうか。(全然伝わらないでしょうね)
まあ、その辺は後世の私達に耕すべき土地を残しておいてくれたということで。。