月光の囁き ディレクターズカット版 [DVD]
いうまでもなく原作は喜国雅彦の同名コミック(小学館ヤングサンデーコミックス/全6巻)で、主人公は剣道をする一見普通の男子高校生。しかし、彼は好きになった女の子の「犬」になりたいという衝動を抑えきれずに、せっかく成立した「普通の恋愛」関係を壊してしまう。そのマゾヒスティックで「変態」的な行動様式に説得力とリアルさがあり、いったん壊れたふたりの関係がどうのような軌跡を描いていくかが主題。描写にすごく緊張感があって、作者はよく心の動きをつかんでいると思う。そういう漫画だが、映画は、原作のエピソードをかいつまみつつ、若干登場人物を整理して、「うまく」創っていると思う。
恋愛においては「変態さ」みたいなものはいわば<つきもの>であって、それを過剰(ホンモノの変態)になる一歩手前のところで思春期的「痛み」や「甘酸っぱさ」に回収している。悪い意味でなく、良い意味で。主題歌のスピッツ「運命の人」というのがそれを象徴している。逆に言えば、スピッツ=草野マサムネ的「変態さ」がしっくりこないひとには、原作漫画もこの映画もわからないかも知れない。「わかる/わからない」といったら、少しイヤミないいかたになるけれども、映画の最後にこの主題歌が流れることでじわっと涙が出てくるような映画だと思う。ただ、漫画に比べて、主人公への感情移入を誘わないところがこの映画にはあって、それはなぜだろうと思う。
シンヂ、僕はどこに行ったらええんや
著者である喜国さんの東京マラソンの本では、間違った(しかし実は理にかなっている)走ることに対するモチベーションの維持の仕方を教わりました。ボランティアもマラソンも結局大切なのは継続しつづけるということですが、本書でもボランティアでの活動を続けるため方法がいくつも紹介されていました。そのすべてに共通することは「自分が楽しむ」ということです。未だにこの言葉をもって表現することが適切であるかどうかは自分でも正しいか判断できませんが、本書では喜国さんと仲間の方々が被災された現場の中で自分の特技や仕事と紐付けして厳しい作業を乗り切る姿が描写されています。表紙のシンヂという変わり者がきっかけで被災地に赴いた喜国さんのように、本書がきっかけとなって被災地に関心を持つ人が増えるのではないでしょうか。
東京マラソンを走りたい ギャグ漫画家 50歳のフルマラソン (小学館101新書)
小学館の運営するWEBサイト「BOOK PEOPLE」で連載されていた「人生で一番うまいバナナを食べてみないか」をまとめた本。
本書のことを知ったときには驚いた。あのキクニが、こともあろうに「東京マラソンを走りたい」なんて言う。読んでみてもっと驚いたのは、意外と真面目な本だったことである。
内容的には、走り始めたイキサツから、フルマラソン初挑戦に初完走、そして自己ベスト達成まで。その合間に「コラム」と称して、練習のモチベーション維持の工夫、ランニンググッズお役立ち情報、等々が散りばめられている。本人も「はじめに」に書いている通り、理想的なフォームや練習方法、ストレッチのやり方なんかはどこにも書いていない。
最初から最後まで笑い満載の本書の何が「意外と真面目」かと言えば、まず第1に、ランニングに関して彼の書いていることには基本的に嘘がないこと。何かを試してみて失敗したときには、何がいけなかったのかを分析し、ちゃんと次に活かしている。
第2に、彼のモチベーション維持法は実際に効果があるだろうこと。彼はもともとかなりゆっくり走っていて、走り始めた当初から長距離を走ることがそれほど苦痛ではなかったようだ。彼にとって障害になるのはむしろ「退屈」、飽きてしまうことなんですね。そこで、飽きずに「つい」走ってしまうような数々の工夫が記されているのだが…、これが参考になる。
そして最後に、「仲間の存在」。走るキッカケであり現在も存続している「チーム焼肉」の面々には決して速いランナーはいないのだけど、彼らは競い合って愉しく走っている。やっぱり共に喜びを分かち合える仲間がいるということは素晴らしいことなんだな、と認識を新たにすることウケアイ。
ちなみに、4年連続で東京マラソンの抽選に落選し続けていた彼だが…、5年目にしてついに走れることになったようだ。走れ! メタル野郎! 健闘を祈る!