子供の頃から、海賊の話はいろいろ読んだけれど、この作品は、当時の時代背景(17世紀末期から18世紀初頭)がしっかり調べられていて、今まで物語上の存在でしかなかった海賊が、初めて実際の歴史、地理と結びついた。インド洋を舞台に、東インド会社の船をねらっていたなど、世界史のあのあたりか、なるほど、なるほど、という感じ。黒地に白いドクロのおなじみの旗が実際に使われていたのは、わずかな期間でしかなかったなど、ふーんそうだったんだといろいろ雑学もあり、おもしろかった。話のテンポもよく、当時の海戦の様子が目の前に浮かぶようで、わくわくしながら、最後まで1日で一気に読んでしまった。
異なる3つの時代のストーリーが最後の最後で一つに交錯する時、その余りの意外性に意表を突かれるが、それ以上に三人の少年少女の夏休みの描写が透き通る程に美しく、いつまでも残像が尾を引く。
1994年に出た単行本の文庫化。 「言いません」「ガラス」「罰ゲーム」「ヒッチハイク」「かかってる?」「嘘だろ」「いいなさい」の7篇が収められている。 分類は難しいが、ホラー小説の一種だろうか。いずれも少年を主人公としたストーリーで、残虐でいやーな結末が待ち受けている。ひねりのある落ちが工夫されており、そこそこ読ませる物語ではある。しかし、いまいちキレがない。著者の狙っているほどには驚かされないのだ。 多島作品を何冊か読んできたが、こういうのには向かない作家ではないだろうか。
中盤まではなんとなく進んでいくが、後半はドキドキ感を味わいながら読み進めることができるクライムサスペンス。
非常に読みやすい。
ちょっとした息抜きに最適。
精神医学のことはよくわからないが、こういった事例はたくさんあるのだろうか。
それにしても患者亜左美の人を振り回す悪質さ。不覚にも読んでいるだけで腹が立ってきた(苦笑)。榊が亜左美の診断にとまどう姿はリアルに感じた。亜左美のあの行動の数々は、簡単に病名の診断を下すことができない支離滅裂さだ。
そして臨床心理士の広瀬由起。初めは主人公の精神科医榊と協力して患者の治療に当たる役割なのだと思っていたが、まさか広瀬自身も精神医学的問題を抱えていたとは・・・。
こんなにリアルで読み応えのある作品だが、途中から「おやおや」という展開になってくる。亜左美と広瀬に共通する症状。そんなにこの症例には頻繁にお目にかかるものなのか?と。ただ、精神分析医の岐戸と榊の、多重人格についての真剣なやりとりはかなりページが割かれていて読み応えがある。
最後の方の榊の亜左美と広瀬に対する対応は、精神科医としてはどうかと思う。精神科医が患者に対して保つべき距離を越えて相手に踏み込んでしまっているように感じる。実際の治療場面ではどうなのだろうか。この作品には患者の治癒という結末はないが、今後の治療にはマイナスではないかと感じた。続きがあるとするならば、これは主治医交代か、治療失敗、榊の精神的破滅といった悲劇に向かうような、そんな気がしてならない。
博物館の方のエピソードと2本立てで話は進むが、精神科病棟の話だけで読んでみたかった作品。
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