フーコー・コレクション〈1〉狂気・理性 (ちくま学芸文庫)
「思考集成」の文庫版。この巻に限らず、このシリーズはフーコーという思想家を良く照らし出す優れた企画だったと思う。思想物の補助ツールは難しく、得てして偏ったり、紋切り型、先入観のパターン化を現物と摩り替えるなど、碌な働きをしないが、このシリーズは本人が登場して語り、または著述した小片の集成なので、悪い作用はしていない。フーコーが活躍した時代には、既に思想の出版物が出版産業の中で駆け巡る時代であったため、その機能を逆手にとって、プラスに作用させたと思える。本巻では、「狂気の歴史」の周辺を巡る企画になっているが、フーコーのデビューの分野だけに、たいへん分かりやすくフーコーのエッセンスが出ていると思う。渡辺守章らとの鼎談は、非常に興味深く、哲学を「選択原理」の場と規定する、フーコーの哲学観が明示され、思想や文学の大局に触れる発言もあり刺激的だ。個人的には、彼のヘーゲル観が語られるところが非常に興味深かった。彼をポスト構造主義の一派とし、反ヘーゲルの思想家と見立てていた日本の80年代〜90年代の哲学案内文献の軽薄さには改めて呆れ返る。「心理学の歴史」など、「知」へのスタンスが明示される小編も多い。彼の思想の性格上、衣鉢を継ぐものはありえないと思うし、それだけユニークな思想家だったと思うし、自分には、ハイデガーやサルトルよりも、現代を総体的に語りえた人だとも思う。時々、戻ってきて読みたくなる作家だ。
映画の頭脳破壊
ひとりで書くだけなら、はったりなどで読者を煙に巻くことができるわけだが、これだけの面子と対談していくとなると裸でぶつかるほかなく、なかなか緊張感のある対話になっている。もちろん緊張感というのは、ひとことひとこと試されるような状況に中原氏がちゃんと向き合っているということであって、まじめくさっているということではなく、この著者らしく独特のユーモアが一本通っている。というか、皆さん、蓮実氏や松浦寿輝氏など年配の偉い人も含めて中原氏と話せるのを単純に楽しんでいるという感じがあり、読んでいるこっちも楽しくなってくる。よさのわからなかった『デス・プルーフ』も、これを読んだ後では自分の見方が甘いんだなときっちり納得させられてしまいました。おもしろい本でした。
川の光
NHKのエコ何とかの特集で、この小説がアニメ化された。
新聞掲載時、途中からだったが、最後まで読んでいた。一時間ちょっとじゃ、限界があるなと案の定、物足りない気と、違和感もあったので、小説を通読。
川に住んでいたネズミの一家が、人間による工事で住処を追われ、新天地を求めて、旅をする。一種のロードムービーのような寓話だ。
最近、「成長するために」、「成長した」などと猫も杓子も軽々しく使うため、すっかり手垢のついた「成長」という言葉だが、もともと弱者であり、子供なのでさらに立場の弱い子ネズミの成長譚が、この物語の骨子だ。
やたらめったら窮地に追い込まれ、ハラハラとしながら、新聞を読んでた。
チャングムの誓い、と似てた。主人公はいつも困難に直面し、その回が終わるのだ。(余談だが、チャングムのラスト近くは落ち着きすぎてツマンナかったと思いません?)
原作から入ったせいか、成長譚としてアニメの脚本は物足りなかった。親子がバラバラになるエピソードがほとんど割愛されたのが大きい。一番キャラが立っていて、どう描かれるか楽しみだったモグラの未亡人がでなかったのや、ドブネズミ軍団に捕まり、あとで反乱軍と脱出するのも、「川の光を求めて」のグレンの言葉を印象づける所なのでアニメではなかったのが惜しい。
もっとも脚本のオリジナルで、ネコのブルーの飼い主が染物をやっていて、体を染めようとするチッチとブルーの会話は良かった。背景の絵、雪の降ってくるシーンなどは非常に精緻で、日本アニメの力を感じた。
アニメを見て、原作を読んだら二度感動できるのでは。
作者は全共闘世代だから、ドブネズミ反乱軍は見果てぬ夢なのかしらん。
不可能
後期高齢者のテロ集団、誕生秘話です(笑)
物語の進行には黒子がいて、それは若者です。
何事かやりたいんなら、爺さん操らずに自分でやんなさい、と思ったけれど、
そうか、先立つものは爺さんの方が潤沢に持ってるものね、と思い直しました。
何言ってんだか分からない? 本作を読んでください。
最後のどんでん返し(これって死語?)までは、
まったく誤解して読んでいました、私。
そうか、作者は三島由紀夫にこんな風に死んで欲しかったんだ。
あんな風じゃなく。ふーん。
でもそれにしては、生前の三島の思想を否定する老年の三島の描き方が
ちょっと純文学じゃないよなぁ。でもまあ、そういうことね。ふーん。
しかしこんな浅薄な、ふーん、のまま読み終わるわけがない。
だって作者は松浦寿輝氏だもの。
昭和45年、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で切腹したとき、介錯が下手くそで首が繋がったまま生き延びた三島が、刑期を終え80代半ばの老人になったという設定です。
それだけでも禍々しくスキャンダルな舞台設定ですね。
世の諸々にまったく無関心、鏡の前で手品をするのが楽しみ。虚無感を空気のように呼吸して生きる老人が、自宅の地下室を人の集うカフェバー風に改造したくなる。外界との接触への欲望が目覚めてきたところで、
待ってましたとばかり登場する謎の青年。(これが黒子)
青年の手引きにより、謎の後期高齢者同好会ROMSに参加、
あれよあれよという間に中心人物になっちゃう。
東大教授に身をやつしているけど(こういう場合、やつすとは言わないよねぇ、普通)
本当は過激な詩人、松浦寿輝氏。
世界中でデモが起きている昨今、老人たちの過激な蜂起を、三島を生き返らせて描こうとしたのかしらん。
いいなぁ、こういうの。俄然、元気出てきちゃう。
老年は善悪の彼岸に佇んで、過激にいかなくちゃ!
川の光 [DVD]
以前テレビ放映されていたのを、偶然途中から親子3人で見て「もう一度テレビでやらないのかな〜」と思っていました。
特に4歳の娘がこれが大好きで、DVDが発売されてとても喜びました。
今はまだ無理だと思いますが、人に対する優しさや自然の大切さを感じ取ってくれれば・・・と思います。
これからも年に何度か繰り返し見ていくことになりそうです。