TSUNAMI3・11: 東日本大震災記録写真集
数多い写真を載せて、何があったのかを被災地以外の人でもわかる位の状況を物語っています。
風化させてはいけない現実と、この写真のまま止まらせてはいけないと考えさせられる一冊となっています。
流れる [DVD]
1956年作品、白黒映画、原作小説が昭和30年(1955)発表なので早い時期から脚色が開始されていたとおもわれる、「浮雲」を別格とすれば、最も成瀬巳喜男らしい傑作中の傑作、小津作品のような世界的に不変な価値観ではない日本独特のえもいわれぬ儚い情緒こそを楽しむ映画、
時間の経過に「流され」消えて行くものたちへ深い愛情をそそぐ演出はビスコンティ「山猫」からハードボイルドさを消去したようなもの、ラスト10分の静かで深い迫力は「ゴッドファーザー」からやはりハードボイルドさを取り払ったもので充分にかの作品に匹敵するとおもう、三味線の連弾にこれほど情緒を刺激されるようになるなどとは若い頃には想像もできなかったのだが、この作品を楽しめる幸福はこれから更に増すだろうとおもう、
劇は山田五十鈴と田中絹代ダブル主演、高峰・岡田・杉村・中北とオールスター映画、劇中、何度となく山田・田中・高峰がワン・カットに収まる、これが評者には和服をあだに着こなす長身の明治の女・小柄で愚直に甲斐甲斐しく働く大正の女・背筋の真っ直ぐな昭和の女に見えてしまう、それぞれの器量をおとし垢抜けなさを追加すれば自分自身の曾祖母・祖母・母の姿に重なってしまう、劇中盤、注射をむずかる幼女を田中が体堅めで抑えつけるシーンがある、幼児期に同じ行為の記憶がある自分にとって微妙な追憶を刺激される貴重な作品なのである、田中絹代に母の姿を垣間見る世代があるように、評者には祖母を思い出させる女優なのである、
1960年に成瀬&山田は再び同じ地域の花柳界を舞台に「夜の流れ」(カラー作品・DVD未発売)という作品を発表している、たった4年の経過がどれほど東京を変貌させたかが楽しめる映画です、
流れる (新潮文庫)
衛星放送で成瀬監督の映画「流れる」を観て以来、原作を読もうと思っていた。映像の印象が、小説を読みやすくした。映画は小説の雰囲気をよく伝えていると思った。杉村春子が年増芸者(染香)をたくみに演じていたが、小説の中のキャラクターそのものである。作者の文章は女性らしいしなやかさがあるが、その精神は何か、凛とした信念というものを感じさせる。当時の女性と労働と報酬について、作者なりの考え(不平等を意識しつつ、その状況を生き抜く)が垣間見えた。
父・こんなこと (新潮文庫)
幸田露伴の最後を看取る日々を、時には伝法に江戸の言葉を使い、明治に残った風俗が、
かろうじて終戦後の街々に残り、生活を規定し、人達が生きている雰囲気を眼前に浮かべてくれる、
なかなか得がたい文章だ。
戦後60年が去年だったけれど、もうどこにも関東だけでなく日本中でこの世界を探すのに苦労する今、
言葉・生活信条・隣り付き合いなどなど「懐かしい」より「失ったもの」の大きさをひしひしと感じさせる。
江戸っていうのは、心のある、自分のある世界だったんだ。
幸田文しつけ帖
幸田文さん青木玉さんのファンで、二人の著作を本屋さんで見かけるといつも購入しています。
父露伴のしつけの章は初めてではなく、既に彼女の別の作品で読んだことがありますが、これ以外のものを眼にするのは初めてです。
このように、あちらこちらに書かれた作品を一つのテーマにおいて一冊の本にまとめているのはいいですね。時代が違っても割合普遍性があって身近な話題でもあり、とても楽しく読めました。女性雑誌の中で人生相談のようなことを受け持っていたのは、意外だったしけっこう面白かったです。
ほかのものでも、幸田文という人の率直な性格とか闊達さとか気さくさ、ユーモアなんかも窺えると思います。どこか、江戸っ子気質も窺えるような気がします。そして、こちらも不思議と闊達に笑ったりができるし、なんだか元気が出てくる気がします。
また、幸田文程の人でも色々な失敗をしてきたんだなと、どこかほっとします(笑)。尤もちゃんと学ぶ人だったんでしょうけれど・・・。
しつけというと何か大げさなものを想像してしまいますが、改めて家庭教育というか家庭での教えの大事さを再認識させられますね。
このごろ、日本人のコミュニケーション能力とか生活全般に関わってくるような常識とかが崩れていっているようで、色々なところでトラブルが起こったり、子供同士から大人にいたるまで、付き合い方とかがおかしくなって事件にまで発展してしまうのを思うにつけても、昔はあったであろう、家で教えられる生活の知恵とか作者が言うような本人の性格の弱点を救う教えみたいなのが、改めて大事なんだなぁと考えさせられます。
また、彼女の生活を楽しむ心もいいですね。
娘さんの青木玉さんの結婚式のときの言葉がいいです。楽しくしている母さんを見ていきたい・・・とってもじぃんときます。
我々もまた、楽しくしている姿を愛する者たちに見せられるよう、また彼らに楽しくしてもらえるよう、過ごしたいと思いました。