帝国ホテルの不思議
ホテルには何とたくさんの職種があることか。
登場する社員は30人。
それぞれの仕事について解説されていくのだが、
なんといっても効果的なのがカラー写真。
全体的に茶系の構図が多く、
帝国ホテルの気品を感じるのに効果を発揮している。
百合子さんは何色―武田百合子への旅 (ちくま文庫)
「富士日記」「犬が星見た」などの一連の傑作が、夫泰淳の影響という以上に、百合子夫人の少女時代より培ってきた感性と表現力によるものであることを、彼女の習作や埴谷雄高などの証言、そして本人との付き合いを通じて記した評伝。村松友視のノンフィクション作品の多く(例えばプロレスもののすべて)に言える事だが、着想点は素晴らしいものの、今ひとつ核心の部分、暗闇の部分に踏み込まず、撫でて賛美して通り過ぎる嫌いは、本作においても例外ではない。
アブサン物語 (河出文庫―文芸コレクション)
犬や猫をペットとしてしか見てない人にはあまりオススメできないかも。
はじめ、著者の猫に対する姿勢が好きになれずなかなかページが進まなかったが、読み進むうちに自然と受け入れるようになり楽しくも最後は涙ながらに読了することができた。心があったかくなる本です。アブサンのイラストも良い。著者の他の本にも興味が持てました。
俵屋の不思議
最強の京都本の一つである。
村松友視はいわずと知れた直木賞作家。
独特の切り口と語り口でファンが多い。
俵屋は、京都麩屋町の高級和風旅館。サルトル、バーンスタイン、ヒッチコックなど超セレブ級のセレブが泊まることで知られる。
その村松友視と俵屋のコラボレーションである。
村松が俵屋をルポするのではなく、村松と俵屋がガップリ四つに組んだ共同作品。どちらが主体/客体ではなく、主客一体の「超作品」なのである。
村松はその独特の文体で、俵屋に関わる様々な人々の生き様と、俵屋に寄せる思いを描き出す。
出入りの職人たち、商人たち、従業員たち。
いずれも京都の市井に生きる一線級の人々だが、村松の筆によって「超一線級」に浮かび上がる。
村松の筆が彼らを生かし、彼らによって生かされる。
俵屋は彼ら(村松を含む)を生かし、彼らによって生かされるのだ。
そう、俵屋は単なる旅館ではなく、アイコン、偶像、いやもしかしたら俵屋に関わる多くの人々の人格から成る一個の「超人格」なのである。
収録されている写真の数々も素晴らしく、「超表紙級」の唐紙のカバーも俵屋そのものである。
時代屋の女房 [DVD]
前の映画のリメイクというよりも完結篇と言った方がいいような内容で、よく出来た作品。主役の安さんを前回と同じ渡瀬恒彦が演じていることも、そして渡瀬が前回よりもずっと年齢をとってしまったことも、一層その思いを深くさせる。本編では、前回ミステリーのまま残されたことが明らかにされ、ハッピーエンドの感がより強い。群像劇の色彩が濃かった前作と違って、本編では主役の真弓と安さんに焦点がしぼられている。若かった真弓と安さんとの灼熱の愛と恋の輝きは消え去ったものの、50男と20歳ほども若い女房との落ち着いた愛がそこにはある。大塚寧々もそのようなわけありの女房をよく演じている。前作とまったく味わいは異なるが、佳作といってよい。前作映画と併せて、ぜひご覧いただきたいと思う。