恋する惑星
挿入歌『夢中人』で始まりテーマ曲『白昼夢』で終わる。どちらもアジアの歌姫フェイウォンの歌。全体的に伸びやかで明るく、映画の雰囲気がぎゅっと詰まった感じ。クランベリーズのコピーである『夢中人』もオリジナルに比べて明るい色付けでおしゃれなアジアを感じさせてくれます。必聴です。
ウォン・カーウァイ DVDコレクション デジタル・リマスター版
世界が注目する若手作家だった頃のウォン・カーウァイ監督の代表作三作とデビュー作がセットというもの。今では巨匠というタイトルをお持ちになってしまいましたが、この当時は本当に好きな親しい俳優とゲリラ的なロケで好きなシーンを撮っていた。その予算的にあるいはアポ無し盗み撮りしたりした撮影は苦しいけど楽しんでいた感じが伝わってきて、それが新鮮でエネルギーになっていて好きな作品、監督だった記憶があります。その後、私の嗜好とは違う方向に監督が行ってしまいあまり見なくなってしまいましたが、昔から恋愛痴話げんかを撮ることにかけては上手いことと昔からいつクランクアップするか分からないところは変わらない、と思っています。この中では恋する惑星が一番有名だと思いますが、監督を知るなら欲望の翼もお勧めです。ブエノスアイレス以前の監督を知るにはちょうどよいセットだと思います。
Requiem for Innocence
木下理樹の歌唱法を聞いて最初に思い出したのが、ブランキー、シャーベッツのベンジーだ。どちらも自分の音程ギリギリの声を出す。ときにそれは音をはずしたりもする。共通しているのは切迫感で、聞いてる側にどんどん迫ってくる。この種の声に拒否反応を示す人もいるかもしれない。
声や音質さえ気にならなければ、アルバムとしての完成度はかなり高いと思う。けっして、曲のバリエーションは広いわけではない。静から動というグランジ的な曲の構造の曲がほとんどを占めている。ギターもそれほど技巧を凝らしていない。
他のカスバンドと何が違うかと言えば、ソングライティングの質の高さだ。「車輪の下」「サッドマシーン」「DIVA」などほとんどの楽曲はポップと言っていいほど甘く親しみやすいメロディーである。静から動へと爆発する瞬間はカタルシスすら感じる。そんな12曲で構成されたアルバム。一枚を通して何回も聞ける類まれな作品だ。
欲望の翼 [DVD]
王家衛監督作品としてというよりアジア映画として記念碑的な作品です。
実際、観客の目に映る物語の舞台は香港から途中でフィリピンに移動し、
また劇中人物の台詞や使用言語からマカオや上海などアジアの諸都市が連想されます。
更には、香港を代表する明星たちを起用したため、
どのキャストにもそれぞれこの人を主役にしたスピンオフも
見たいと思わせる魅力があります。
特に前半はマギーに片思いする警官、
後半は船乗りに転身しヨディに再会する役を演じたアンディ・ラウは、
破滅的な人生に半ば自己陶酔している主人公ヨディを一蹴するくだりで
主人公とほぼ等量の重みを持って観客に迫ってきます。
レスリー・チャン演ずる主人公ヨディは身勝手で残酷ゆえの悪魔的な魅力があり、
マギーやカリーナ・ラウが扮する女性たちやジャッキー扮する友人ばかりでなく
観客をも魅了します。
彼の語る「脚のない鳥」の話は彼自身の象徴であると同時に
聴き手をも掴みどころのない不安に陥れる魔力を備えており、
この作品では両性具有的なレスリーの雰囲気と
魔性的な役どころが一分の隙もなく邂逅しています。
しかし、その一方で観客の冷静な感慨としては、
ヨディの設定も台詞も物語的な装飾があまりにも過剰で気障っぽく
本当には共感し得ない感触を受けざるを得ないので、
アンディが演じた役はそうした観客の現実的な視点を代弁し、
「脚のない鳥」の生き方を相対化する役割も果たしています。
こうした視点を明確に入れている点に後続の作品にない清新さを感じました。
また、登場人物のモノローグで感情を説明する手法がこの映画では多用されており、
主人公の実母のモノローグまで入れたのは少し余計に感じましたが、
漂白していく主人公を巡る切ない視点を新たに明示したと考えれば了承できました。
「花様年華」「2046」へと続く王家衛映画の原点となる作品です。
2046 [DVD]
ウォン監督の作品の中で最も感動しました。
主人公を中心にメインキャストの其々の心情が上手く交差し、一つのストーリーとして確りと纏め上げられています。
恋愛における苦しみが、繊細に表現された秀逸な作品です。