きまぐれ砂絵かげろう砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ〈3〉 (光文社時代小説文庫)
捕物帖好きの自分がまだ読まずに済ませていた都筑道夫の砂絵シリーズ。魅力あるキャラクターだけでなく,春夏秋冬江戸の風物が巧みに描かれています。都筑氏の筆の確かさ,力強さが支える物語の推進力には,驚くべきものがあります。これまで未読だったことが幸運に思えました!
推理作家の出来るまで (上巻)
著者が「ミステリマガジン」に連載したエッセイであり、著者の幼年期からミステリ作家としてまでの自伝といった感じのものである。
上巻の前半、特に戦争時のあたりは、個人的には面白くなかった。しかし、このような体験が作家都筑のもとになったことを考えると、読んでおく必要がある。そして上巻の後半、戦後の作家スタートからは、正岡容、大坪砂男、その他の作家、編集者、ミステり関係者等々が登場し、がぜん話が面白くなるる。ある種、出版業界裏ばなし、とでもいえるようなエピソードも満載である。
本エッセイが連載されていた昭和五十年代ごろから、著者のミステリ作品はどんどんライトテイストが強くなっていった。たぶん社会派企業情報ミステリ全盛の状態で、著者が志した「謎と論理のエンタテインメント」があまり評価されないことで、テンションが下がっていたのであろう。
本書を読むと、綾辻登場以降の新本格の隆盛が五十年代前半だったら、著者がどのようなミステリ作品を残したであろうかと、ふと考えていまう。ミステリの創作には気力と体力が必要であるため、ベテランといわれる作家諸氏の長編作品を見ることは、ほとんどない。牧「完全恋愛」や土屋「人形が〜」などは、例外中の例外といえる。しかし、完成度という点でも、若いときの作品とは比較にならない。
著者がまだ創作意欲旺盛なときに、新本格ビッグバンがあれば・・・というのは無理な要求であるが、一時期の道尾秀介が、いいところまで著者の志に近づいていた。残念ながら賞取りに走って、方向性が違ってしまったが。
著者のように、ミステリも時代小説も評論も一級であり、いずれも幅が広い、という作家はいない。残念ながら、著者のミステリでは超一級品というものがない。全てにおいて水準以上のレベルであるのだが。「猫の舌〜」や「七十五羽〜」では弱いし、短編ではやはりこれ一冊という重さに欠ける。「誘拐作戦」、「三重露出」、「悪意銀行」なども好きな作品だけども。「なめくじ長屋シリーズ」は初期のものだけなら評価できるのだが・・・
本当に、器用貧乏という言葉がぴったりくる作家であったが、その器用貧乏さがどのようにして生まれたのか、というのが本書を読むとよく分かる。本書は、作家都筑道夫の誕生と成長を知るためだけではなく、戦後の文壇裏話やミステリ雑誌創生期を記録した、貴重な資料でもある。
殺人狂時代 [DVD]
主人公は結局一体何者だったんだ??と観終わった後に考えてしまう程楽しめた。仲代さんのこんな演技初めて観ましたね。最高。映像はモノクロで、セットや衣装も洒落ている。特に病院内がすごい。ダリみたいで時計じかけのオレンジのバーみたいな感じ。それと主人公のつけてる時計がまたいいですねー。ストーリー、設定だけで考えると結構ヘビーでタブーなものになるのを、役者の演技や台詞でちょっとトボケた感じにして、重たくないようにしてるように感じました。これはおもしろい映画です。
都筑道夫 ポケミス全解説
著者が海外ミステリについて述べたものは、どうしてこんなに面白いんだろう。
「死体を無事に消すまで」も、とても面白かった。
多分、著者が心底海外ミステリが好きだったからなんだろう。
著者の嗜好は、けっして本格ミステリではなかった。
どうも、スパイ・スリラーや怪奇小説や、そしてフレンチ・ミステリに著者のアンテナは向いていたようだ。
もちろん、本格は押さえておいてなのだが、それは最低限度に、という感じがしてならない。
ボンド作品、ソロ作品、その他のスパイ・スリラーなどについての熱い文章と比べると、どうしても本格ミステリについての文章は醒めているように見える。
それはもちろん、作品の紹介のし易さ、し難さ、というものが関与していたと思う。
しかしそれ以上に、やっぱり著者は好きだったんだよ。
本書を読んでも、その著者の嗜好、アンテナの方向は、よく分かる。
そして、こういうものを一冊にまとめて出版してくれたことに、著者のファンとして感謝したい。
著者が若く、ミステリに対する情熱に溢れていた当時のものが、こうやってまとめて読める。
しかも、海外作品についてのものである。
思えば、ポケミスは広いジャンルのミステリをカバーしていたんだなぁ。
今でも刊行は続いているが、本書収載の作品群を読破すれば、もうそれ以外のミステリを読まなくても、ほとんどのジャンルを制覇したといえるかもしれない。
ちみどろ砂絵・くらやみ砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ〈1〉 (光文社時代小説文庫)
江戸情緒の描写や人情噺が主眼となってしまった捕物帖を秀逸な謎解きミステリであった「半七捕物帖」の原点にもどす試みと、不可能犯罪をアクロバティックに、あくまでも論理的に解決する都筑流モダーンディテクティヴ・ストーリーの実践を両立させた驚嘆すべき都筑道夫の最高傑作シリーズにして久生十蘭の「顎十郎捕物帖」と並ぶ捕物帖の最高峰。
いささか氾作された感のある氏のシリーズキャラクターたちの中でも砂絵のセンセーとその長屋の仲間たちの生き生きとした造形は特筆されるべき存在感。そして細緻を極める江戸風俗の描写も並の専業時代小説家の及ぶところではない。
凝りに凝った新保博久氏の解説も読み応え充分の素晴らしい復刊。