怖い俳句 (幻冬舎新書)
『怖い俳句』という書名だけで「けっ!」と思う人もいるかも知れないが、本書は決してエキセントリックなキワモノではない。ここに集められた俳句は実際ある種の俳句であるが、「ですます」調で専門用語を極力用いず平明に語る著者の語り口は、いたずらに怖がらせるためのバイアスの決してかかっていない、個々の俳句が持っている本来の味わいを引き出す深い確かな読みである。踏み込んだ記事では、技術的な効果や音読したときの効果までもが、分かりやすい言葉で記されている。
そして芭蕉から種田スガルまで、紹介される俳句のワイドレンジなこと。
「芭蕉から子規まで」8人。
「虚子からホトトギス系、人間探求派まで」12人。
「戦前新興俳句系」17人。
「実存観念系とその周辺(伝統俳句、文人俳句を含む)」26人。
「戦後前衛俳句系」14人。
「女流俳句」22人。
「自由律と現代川柳」13人。
「昭和生まれの俳人(戦前)」41人。
「昭和生まれの俳人(戦後)」48人。
まったくよくぞ、これらの幅広い著作から「怖い俳句」を拾い出したものである。ぜんぜん知らない俳人も多々だが、私にも分かる範囲では時代背景や俳人紹介も簡潔にして適切である。それぞれの俳人について記事は興により伸び縮みするらしく、半ページのものもあれば、阿部青鞋など5ページにも及んでいる。
このアンソロジーから俳句に入る人はきっと幸せである。