人が死ぬ瞬間、体重が少しだけ減る、という話を聞いたことがあります。その重さが、21グラムだそうです。 人が死ぬと、魂が抜ける、と考えている人には、だから、21グラムは、魂の重さだ、ということになります。 私は、この映画の題名だけを見て、そういうオカルト的な、あるいはSF的な、内容を、期待したのですが、まったく違う、人間ドラマでした。(だからといって、期待外れだった、という訳ではありません) 『21グラム』は、『命の重さ』という意味で題名に使われているだけで、本編の内容には、関係ありません。 たったの21グラムですから、意外と軽いな、という感じがします。しかし、人命は、地球より重い、と言う人もいますから、物理的な重さだけでは、計り知れません。 ある事故を中心に、3人の人生が、絡み合います。 その3人とは、心臓移植以外に助かる道のないポール・リヴァース(ショーン・ペン)、優しい夫と2人の幼い娘と幸せに暮らしているクリスティーナ・ペック(ナオミ・ワッツ)、信仰に没頭することで心の平静を得ようとする前科者のジャック・ジョーダン(ベニチオ・デル・トロ)、です。 その事故を中心に考えると、それ以前の過去と、その後の未来、しかも3人の、それぞれの人生の断片が、ランダムに、細切れに映し出されます。 時系列に沿って、物語を構成(編集)することももちろんできたのに、あえてこういう形にしたのには、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の、この映画のテーマをより効果的に見せる、という意図があるのでしょう。 二度三度と繰り返して観ると、特に映画の前半の、一つひとつのシーンの意味が、より鮮明に見えてくると思います。 どうしようもなく遣り切れない、運命の過酷さ。『それでも人生は続いていく』というような言葉が、何回か出てきますが、それでもどこかに希望を見出して、生きて行くしかない、いや、生きて行こうよ、そんなメッセージを、感じました。
佳作!
とても綺麗な静謐な画、おさえた演出と芝居
シンプルなアイディアにしっかりした脚本
それにしても、貧しさがなぁ…頑張ってるお母ちゃんたちがなぁ…
観ててキツい…
本当にクソったれな世の中だったり境涯だったりってことはあるけど
親から子への愛情が保たれていると
なんだか大変な事どもも何とかやっていける
っていうメッセージを僕は受け取りました
勿論褒められたことじゃないけど…それでも…
「甘い」んじゃなくて「優しい」、そんな映画です つよくオススメ!
等、色々なものが詰め込まれています。やや地味かもしれませんが、静かにでも何かが伝わってくる映画だと思います。
主人公のピートは独身で気ままに生きているカウボーイです。ピートの行動は、メルキアデスの死が「ただの不法移民の死」と扱われた怒り、親友を「死」「殺人」に突然取り上げられた事に起因するかもしれません。ピートにとって真実は「メルキアデスの言葉」であり現実は二の次で「友情とは信じること」と体現するピートに感動します。悲しみを「号泣」、怒りを「声を荒げる」など安易な表現は使わず、主人公の行動、旅の終わりまで見届ければ、彼がどんなに怒り、悲しんでいたか、孤独かも伝わってきます。
全体として「孤独」な登場人物が多い印象です。1つ1つのエピソードが日常にある孤独を感じさせます。例え2人で暮らしていても、心が通っていなければ1人と一緒であるとか、そういう孤独です。
国境警備隊の男性は「不法入国者」を「不法入国者」という枠でしか認識した事がありません。自分と同じ「人」である、感情がある、等を考えたことのない想像力の貧困な人です。ただ、彼は悪人ではなく、普通にいそうな人なのです。彼はこの贖罪の旅を通じて、「不法入国者」も同じ人間であること、命の重さ、ピートを孤独にしてしまった事・・等に気づきます。私たちも旅を通じて国境は人が作ったモノで、あっちとこっちで同じ人間が住んでいる、と改めて考えさせられます。
色々書きましたが、決して暗い映画ではなく、笑えるところは笑えるし、割と淡々としています。美男美女もおらず、悲しい時でもふとした拍子に笑えてしまう、そういう日常にあるアイロニーがそのまま描かれています。
隙が無く、自然に伝わってくるモノもあり、これは優れた作品ではないでしょうか?大ヒットはしないでしょうが、観た人の感想を是非聞いてみたい作品です。
最初のシーンから、登場人物に乗り移ったかのような兄ディッキー演じたクリスチャン・ベールの演技が凄いです。「バットマン」の大富豪役とは真逆の、ヤク中になり切る。歯並び替え、髪を抜き、13kg減量も凄いけれど、フラフラと重心の高い歩き方、焦点がズレてボケた目つき、その振舞いに違和感なく説得力があります。エンドロール前にオマケ映像として本人が登場するんですが、もう、容貌も話し方もソックリですよ。カメレオン俳優クリスチャン・ベイルの面目躍如ですね。
主要登場人物達の人物造形がみな素晴らしく、もちろん、主人公のマーク・ウォルバーグもずいぶん体重を絞ったようで、家族に翻弄されながらも自分を貫くボクサーぶりがカッコイイです。母親を演じたメリッサ・レオの、人をイライラさせる演技は凄かったし、お姫様俳優のエイミー・アダムスが、一転、野性的な魅力を発揮しメリッサ・レオとは好対照でした。
本作は、主人公ミッキーがボクサーとしての才能を発揮していく物語であると同時に、問題をかかえたファミリーが変わっていく物語であり、兄ディッキーが麻薬中毒から脱出する物語でもあるという重層的な構造になっています。それらが相互に深く関連しあっている描き方は脚本、演出ともに見事であり、感動を増幅させています。二人の兄弟が自分自身と闘い、過去を乗り越え、二人三脚で夢を手に入れる。
印象的だったシーンのひとつに、ある日車の中で、いつまでもダメな生活を続けるディッキーのことを母親が嘆くのですが、そこでディッキーがビージーズの「ジョーク I started a joke」を口ずさむシーンがあります。歌詞の内容は、
僕がジョークを言ったら
それを聞いた世界が泣いた
それが僕をからかったジョークだなんて思ってもみなかった
だから僕は泣いた
そしたら世界が笑った
自分は笑い物だって、もっと早く知るべきだった
ディッキーの境遇とピッタリで、なんだか、胸にジーンときました。
他にも、レッド・ツェッペッリン、エアロスミス、ローリング・ストーンズのなど、60・70年代のロックが印象的に使われています。
ディッキーは弟のことを一番に思い、二人の夢である世界チャンピオンを叶えかったのに、あろうことか弟の成功を妨げていたのは、他でもない自分や家族だったんですね。
二人それぞれが自分自身と闘い、過去を乗り越え、ようやく世界タイトルマッチのチャンスを手にし、クライマックスの戦いとなります。
共にオスカーを受賞したメリッサ・レオ(助演女優賞)とクリスチャン・ベイル(助演男優賞)の演技は流石に見応えがありました。
特にベイル氏はキワキワのカメレオンぶりで正直、かなり「ヤバい」。
デ・ニーロ氏の後継者はこの方で決定ですかね。
が、しかし私は途中からは完全に(主演である)マーク・ウォルバーグ視点で見ておりました。
結果をみれば完全に主演であるウォルバーグ氏(クレジットでは彼がトップ)が助演陣に喰われた格好なわけですが
本作、彼はプロデュースにも名を連ねており役者としてのギャラは返上して臨んだそう。
それどころかそもそも、ベイル氏をプロジェクトに招いたのも彼のアイデアだったそうです。
なんでも双方の娘さんたちが同じ小学校に通っている縁だそう(PTAのパパ友なのだ!)。
本作、実は結構な難産プロジェクトだったそうでウォルバーグ氏は2005年から撮影開始まで延々とトレーニングを続けていたらしい。
実は最近、デート&ナイト [DVD]、”The Other Guys”(未公開)と立て続けにウォルバーグ氏の出演作を見たのだがこの2本は完全にコメディ。
デート・ナイトではゲスト扱いですが全編上半身ヌードで通しており、この時点で完全に体が出来上がっているのが良く分かりました。
”The Other…”の方はウィル・ファレルとコンビを組んだ「刑事もの」ですがこちらでは完全に肉体美は封印(バレエシーンはあり)。
ファレル氏のボケに振り回される地味な刑事役を意外なほど好演していて、妙に気にかかっていたのでした(早く公開を!)。
打って変わってシリアスな本作の彼を見ているとどうしても代表作「ブギー・ナイト」を想起してしまいます。
それはどちらもテーマが「家族」と、見てとれるからですね。
「役者」としては現時点では突出したものがあるとは見えませんが作品の選び方のセンスや強い人脈など「大物」の片鱗もチラホラ。
今後も注目しておきたい人物と言う気がします。
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