新月譚
読み始めたら止まらずにほぼ一気読みしました。
ぜひ多くの方に読んでもらいたいので内容については書きませんが、
貫井徳郎氏の最高傑作といってもよいかと思います。もう只々圧倒されました。
読み進めていっても読めない結末、ドキドキしながら夢中で読みました。
終わり方も切なく美しく非常に心に響きました。本当によく考えられた作品だと思います。
陳腐ですが、こういう作品を読めたことに心から感謝します。
ほんと素晴らしい!
灰色の虹
慟哭でいたく感動しましたが、灰色の虹は
久々の貫井本でした。
この間に多々作品があるのは承知の上で
不遜なレビューとは思いますが…
まず、取材が薄くないか??ってのが一番気になりました。
法廷もの、といってもいいくらい裁判シーンなり裁判関係・司法関係の
記述が多いのですが、いちいちチェックしてませんけど、
職業として弁護士をしている私の目には「え?????」と
思うようなところが頻出です。
小説だし、と思って読みましたが、リアリティ小説なんだから
もっともっと取材して欲しかった。
(私としては、そういうところが目についてしまって、
テーマに肉薄できなかった面がありますが)テーマとしても
書き込みが物足りなかった感はあります。これは他の方も書いておられるところですが。
すごく未消化な感じがあったですし、逆にぐいぐいっと引っ張られる感じの欠如と
いうのを感じて、慟哭という作品を懐かしんでしまいました。
ちょっとそれが悲しい。
微笑む人
誰もが見ても冷静で紳士的な人と思われていたエリート銀行員“仁藤俊実”の妻子殺し、銀行員は、はじめ、悲劇の被害者と思われたが、目撃者の通報で一転、凶悪な殺人事件へと変貌する。
彼が告白した犯行動機は、あまりにも常軌を逸したもので・・・“本が増えて家が手狭になったから、妻子を殺した”・・・と自供したことである。
ひとりの作家がこの殺人事件の真実を探るノンフィクション風の犯罪小説である。作家は銀行員の過去を取材するうちに、不自然な事故死が次々と起こっていたことを知る。また、評判の良かった仁藤の人物像についても、異なる証言が・・・さらに作家は探索に没頭してゆく。
だが、後半、作家が仁藤の半生を遡ることによって、真実像にいよいよ迫ったのかに思える時に迎える空恐ろしい衝撃的な結末は、二重三重の虚像で、実像に我々の目の視点がなかなか合わない。
“人は誰でも色つきフィルターを通してしか他人を見ることはできない”ということを証明してみせる為のノンフィクション仕立てか。
呆然とさせる異色作。ですが、分かる人には分かり、分からない人には?な小説です!
面白いからイインジャない!
乱反射 (朝日文庫)
途中でてくる言葉であるが、昨今の歪んだ権利施行主義とでも言うべき主張や求めるばかりを誇示する風潮の根底には自己愛に染まった姿があると考えられる。自己愛という名の自己解釈と自己チューから形成される魔物の増加。
自分もなりかねない環境の中で、やはりこれを目の当たりにすると憤慨したくなる。そんな危ういバランスの世相をしっかり反映させた話で怖いもの見たさに似た感覚に陥り、読む手が止まらなかった
慟哭 (創元推理文庫)
デビュー作にしては文章は上手い。伏線の張り方も心得てる感じがする。
なんだけど、この作品、ちょっと冷静すぎ。
慟哭というタイトルが空回りしている。
デビュー作というのは、トリックが凝りすぎて変だろうと、文が稚拙だろうと、
作者のこだわりとか、ものすごく言いたい一言とか、
怒りとか、コンプレックスとか、そういうものが熱く伝わってくるから、
そういうものを拾うのが楽しい。
でも
この作品の場合、新興宗教に対しても特に作者が何かを思っている感じがないし、
子供を奪われるという設定も、やっぱりただの舞台設定で、
警察組織の不協和音も、あくまでそういう場面を書いてみた的で、
作者のこだわりがあまり見えなかった。
だからラストに至っても、未解決のまま放り出された不満もあって、
慟哭って、これだけ??! というガッカリ度が大きい。
そのへんがやっぱりデビュー作ということか。
むしろ文章が上手いだけに肩透かし感が強いのかもしれない。