パッション-最後の誘惑
これは同名映画のサウンド・トラック盤。イエスの描き方をめぐって論争を巻き起こし、フランスでは上映禁止になった、と記憶している。映画自体もとてもユニークな視点をもっていたが、このガブリエルの音楽のユニークさはまた驚異的であるともいえる。
ほとんどポップな響きはもっていない。しかし、彼独特の緊迫感ある音、危機感、緊張感、寂寞感は前編を通じて一貫したものとなっている。そして The Different Drum で一瞬みえるあらたな地平へと希望に満ちた旅立ちを迎えるような確信を響かせるところもある。
このアルバム作成にはアジア・アフリカからもそれぞれの地域で最高のミュージシャンやヴォーカリストが終結している。これは彼が主宰するレーベル Real World あるいは同じく WOMAD の活動を通してのネットワークを発揮したものだ。あらゆる音楽ジャンルの要素を盛り込んだものでもあり、あらゆる境界を取り払った作品といえる。
このような試みはやはりガブリエルでしかできないことであったと思うし、過去の自らの音楽と活動をこの機会を得て総決算したような位置付けともいえる。そして最近ではUPで再び原点に回帰するような音になっている。
音楽家としてのガブリエルを知るうえで必聴の作品だ。
最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
この小説は、圧倒的に私たちを消失させる。数々の残酷で鮮烈なエピソードに人間の現在が映し出される。無数の物たちが姿を現しては、失われ、また現れる。ここを含むどこかで・・・。これは、決して近未来の話などではなく、今だ。
最後の誘惑 [DVD]
イエスが人間としての肉体を持って生まれてきたということは、この問題作のように人間としての苦悩を引き受け、疑いや迷いをも経験せざるを得ないというだと思います。十字架にはり付けられてからのエピソードも人間としての苦しみや悲しみ、弱さを背負うという観点から言うと、あながち嘘ではない。むしろイエスの心の揺れ動きを忠実に描いたのではないかとさえ思います。イスカリオテのユダも魅力的なら、バプテスマのヨハネもいい。イエスとの出会いで突然振り返り、「誰だ」と言うシーンはそれだけで鳥肌ものです。音楽も最高、全然長さを感じさせない作品です。