眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く
カンブリア紀に、生命が突如として多様性を表した原因を、「眼の誕生」に求める。三葉虫の祖先に眼が備わったことにより、彼らは積極的に獲物を追えるようになった。同時に、追われる側も眼を発達させ、また対抗手段として硬いカラを進化させた。
終章には、オーストラリアの新聞社がこの説を一面で報じた際、編集局長が「ほんとにこれが新しい説なのか」と記事を執筆した記者に確認したエピソードが紹介されている。それだけ一見「当たり前」であり、誰もが直感的に思いつきそうなアイデアである。
しかし、著者はこれをアイデアにとどめない。「学説」にすべく、冗長に思えるほど慎重な立論を展開する。結論に行き着くまでに、光の物理的特性、眼の構造などを丁寧に解説するのだ。それだけにアイデアは説得力のある学説に昇華している。
リチャード・ドーキンスらから始まる進化の科学の大衆化は、たくさんのトンデモ本を産んだ。「眼の誕生」が進化を推し進めたという極めてシンプルな仮説は、ともすればトンデモ科学に陥る。著者の慎重な筆の進め具合は、科学に対する真摯な態度として好感が持てる。
この慎重な筆の進捗が、光の特性や眼の構造の理解を深めるという副産物も提供してくれる。そういった意味でもオトク感のある一冊だ。