ステップ
ステージが10に分けられていて、ほぼ毎回撃たれて死んでしまう主人公。しかし次のステージは痛みを感じているものの生きている。ステージのはじまりは設定が毎回微妙に違っている。しかし記憶は続いて残っているので、どんどんストーリーの確信に迫っていく。周りで命を落とした人も再度生き返って登場することもしばしば・・・。ワクワクしながら読めました。
本書をテレビドラマ化すると、かなり面白いと思う。ストーりー展開が斬新で新しい。毎回期待させてくれる内容になるのでは?
女警察署長 K・S・P
週刊新潮で縄田一男さんが絶賛していたので買いました。文庫の第一巻では、細谷正光さん絶賛とありましたね。
「絶賛」の謳い文句には、騙されることも多いのですが、このシリーズについては大当り。最初のページを開いた時から、ラストまで一気に読まされてしまい、思わず1巻から遡って読破しました。
そんな面白いストーリーなのに、必ずどこかでほろっとさせられたり、こいう人っているよなあ、と思わされたりするのも、このシリーズの魅力のひとつでした。
ストーリーの面白さに加えて、そんな深い奥行も感じさせるK・S・Pシリーズは、間違いなく現在の警察小説の中の最高峰だと思います。
贄の夜会〈上〉 (文春文庫)
’06年、「このミステリーがすごい!」国内編第7位に輝いた、文庫上・下2分冊に渡る超大作である。「このミス」の解説によると、本書は、’99年に「第52回日本推理作家協会賞」を受賞した『幻の女』と並ぶ、香納諒一の畢生の傑作ということである。
物語はふたりの女性の惨殺から幕を開ける。そしてこの猟奇殺人を追う、組織から逸脱した刑事、孤独な殺しのプロフェッショナル、そして謎の真犯人と、三者の追跡と闘いを、真正面からたっぷりと描いている。
少年犯罪、犯罪者は本当に更生するのか、といった問題、それに暴力団の抗争、プロの殺し屋、警察内部のキャリアとノンキャリアの問題、公安と刑事課との綱引き、警察内部の腐敗構造、あるいは被害者の人権、復讐、そして猟奇殺人・シリアルキラー、サイコサスペンスといったことが複雑に絡み合って、“香納流ハードボイルド”ストーリーは展開してゆく。
刑事にしろ、殺し屋にしろ、他人の心を操る謎の殺人者にしろ、その過去と生き様は、それぞれ、それだけでひとつの作品ができそうな重みとボリュームを持っている。
加えて、初出が、『別冊文藝春秋』の連載だったこともあり、各章にヤマ場が設けられており、これだけの大長編を飽きることなく読ませてくれる。そして第五章の「慟哭」で物語は大きく転回し、第六章(終章)の「暴走」で、刑事と殺し屋が出会った時、衝撃と感動の大団円が待っていた。
本書は、香納諒一が構想執筆に6年を費やした、読み応えじゅうぶんの大作である。
炎の影 (ハルキ文庫)
ここのところ印象に残る長編が少なくなってきている香納諒一だが、かつて『梟の拳』『幻の女』で見せてくれた作品レベルの高さを、いや、何よりも作家としてのスタンスの確かさを、今も期待しない手はないわけで、ここのところ短編の名手というだけでは物足りないという思いを抱いていた香納ファンには、久々に登場するこの力作は、相当に納得ゆく手応えを感じさせてくれるものと思う。
キャラクター造形がこの人の真骨頂。本作では、まるで『さらば愛しき女よ』の大鹿マロイのような心優しき大男が主人公。ふとしたことから人生の道を踏み外し、背中に墨を入れ(勿論知る人ぞ知るヨコハマの彫安の手になるもの)、ヤクザとしての自分に忸怩たる思いを噛み締めている。
死んだ親父の足音を追っているうちに深みに嵌まってゆく主人公は、謎を追い、父の人生の航跡を追い、自分自身の明日を追っているようにも見える。主人公に絡む兄妹が
出色である。そして香納作品には欠かせない「忘れがたき悪役」としては、元プロ空手家が登場。これがまた素晴らしく存在感を醸している。いつも香納ワールドに響きを持たせる彼ら個性的な悪役の存在。組織に属しながらいつも個人であり続ける不敵なやつら。なんという人物造形の確かさだろう。
数えてみれば三ヶ所。ぼくがつい涙腺を緩めた場所の数である。ラストシーン、それこそずきずきと胸が痛くなるほどに心臓が鳴り響いた。錦繍の榛名山腹。どこまでも続く山並み。あくまで美しく、痛いところを突いてくる作品。メロドラマではなく、だれもが持っている父親へのこだわり……葛藤、不在感、そして反骨と後悔。あくまでミステリーであり娯楽性を追求していながら、こんなにも見事に深々と読者の側の傷の痛みを突いてくる。これが香納諒一なのである。和製ハードボイルドの旗手という称号を今回だけは文句なしに与えたくなった。それだけ感動的な一冊ということである。