虚空の冠〈上〉
電子書籍の覇権争いがテーマというので、多少の胡散臭さを感じながらも読み始めた。これが抜群に面白い。終戦直後から始まるメディアの攻防のなかで生きる人々の権力をめぐる物語である。モデルは朝日新聞と誰もがわかる新聞社の凋落していく様、まったく!とうなずいた。伏線の張り方、「鳩」の使い方、無駄のない物語の展開がすばらしく、2冊あっという間に読み終えた。最後には、余韻を残した大どんでんがえし。これぞ小説の醍醐味、すばらしいとしかいいようのない仕事だ。しかし、帯のキャッチ「譲り渡した『正義』の代償に、王の階段を上り始める。」は、「『正義』を代償に」でしょう(笑)。
ラストワンマイル (新潮文庫)
楡 周平さんの「再生巨流」も面白かったが、この「ラスト・ワンマイル」も
ビジネス物小説(と勝手に言います)もハラハラドキドキの面白さがあります。
ローソン,TBS,楽天,ライブドア,ヤマトと実在の会社に当てはめて、TBS買収騒動の頃を思い出しながら読みました。
実際には別々のニュースがうまい具合に、一本道に舗装されており、ストーリーの中で提案されるビジネスモデルは、
実社会でそういうサービスが出てきてもおかしくないと思えるくらい、リアリティがあります。
お話なので、ご都合主義的にトントン拍子に話が進んでいきますが、
そこには目を瞑って、どんどん加速していく話のスピード感を楽しんでください♪
読後は、ヤマトがんばれ。郵便嫌いって気になりました^^;
# なお、タイトルの「ラスト・ワンマイル」は通信系で使われているのとは違う意味です。
骨の記憶 (文春文庫)
ん〜!凄い!508Pの分厚い一冊、一気読みでした。
貧しい岩手の少年が上京し、ラーメン屋で働く辺りも、しっかり書き込まれていて非常に面白かった。
しかしこの物語の真の面白さは、その先にありました。
偶然が偶然を生み、別人として生きるチャンスを得た一郎。
おまけに、何の役にも立たないと思っていた土地の権利所が、お宝となった。
そこからの一郎のサクセスストーリーの面白さ!
楡さんの作品は、『プラチナタウン』しか読んでいないのですが、資料の集め方が凄いのか、まるでドキュメンタリーを読むようなリアルさがある。
成田の土地の買い上げのことや、当時の世相が実にきちんと描かれているので、トントン拍子に進むサクセスストーリーに無理を感じさせないものがあります。
運送業をなし、更にコンサルタント会社まで興し、億万長者となった一郎。
没落した子爵の末裔の屋敷を買った一郎。
そこでかつて憧れていた清枝そっくりの娘・冬子に出会い、結婚する。
全てを手に入れたように思われた一郎。
後は、自分の血を継ぐ子供だけ。
が…。
冬子のプライドも凄ければ、その冬子に何も残さないと決めてからの一郎も凄い…。
己の死期を知った一郎が最後にやりとげたのは、弘明への復讐。
一郎の一生は弘明に追いつき、追い越すことだったのですね。
戦後の昭和、這いずり上がり、生き抜いた一郎の一生、面白かったです。
ただ、エピローグでの清枝の弘明への仕打ち…。
これはどうなんでしょう。
もちろん弘明が父を奪い、その後のみじめな生活を送ることになったのですが、プロローグでは『弘明を愛している』と言っていた清枝。
全ての人が不幸で終わっていくこのラストに胸が重くなりました。
あまり取り上げられていない感じがするこの本ですが、ぜひぜひ、読んで欲しいと思う一冊。
超オススメです!
再生巨流
『フェイク』がなかなかの微妙作だったので、不安になりつつ期待しつつ、発売直後に買いました。
今回の舞台はビジネス、それも運輸業界。
アクション中心だった楡さんにしては珍しいチョイスだなぁ・・・ひょっとしてこれもダメ作かぁ・・・?と思いましたが、大違い!手に汗かきながら一気に読了しました。後味も最高に爽やかで、しばらくは興奮してニヤリ笑いが止まりませんでした。
楡さん独特のスピード感と迫力はそのままです。いかついオッサン(主人公)に好感を持たせ、血を流すことなく銃撃戦のような緊張感を生み出す楡さんの文章力にはホレボレさせられます。ビジネス小説なんか見たこともなかった私をもグッと惹きつけるその展開にシビれました。
ついつい誉めすぎましたが、稀に見る良著です。
ここ数年引き気味でしたが、また楡熱が上がりそうです。
Cの福音 (角川文庫)
この本だけを読んでも、たいして面白くないかも知れない。でも、この後4作続く朝倉恭介シリーズ
のプロローグとして、隙の無い完璧な主人公がいかにして作られたかを知るには良いかも。
主人公が完璧すぎるから、武装した香港マフィアに囲まれてもイマイチ緊張感が出ない。
そんな完璧な主人公に比べて、敵である香港マフィアのヘタレぶりには笑いました。