オリエント急行殺人事件~死の片道切符~ [DVD]
アガサ・クリスティの屈指の古典的名作を、シドニー・ルメットが完全映画化。映画ファンとミステリーファンは連関すると言うが、双方のファンにとって、満足できる傑作だ。実在したリンドバーグ事件をモチーフにしたアームストロング幼児誘拐殺人事件の経過をフラッシュ・バックで手際良くまとめた後、舞台は遠くイスタンブールへ。冬のオリエント急行に乗り込む乗客たち(演じる豪華絢爛な映画スター&演劇界の名優たち)を、ひとりひとり紹介しながら、その後、大雪で立ち往生する列車内での殺人事件を受けての展開は、重厚かつエレガント、正にクラシカルなムードで、良質の舞台劇を観ているかのようだ。映画ファンを喜ばせるキャスティングと洒落っ気はニヤリとさせられ、例えば、アンソニー・パーキンスは「サイコ」の役柄そのままだし、リチャード・ウイドマークは、過去に自身が演じてきた冷酷非道なギャング役の数々がオーバー・バックされ、「あの末路も仕方ないか」、と思わせる。ローレン・バコールが、ラスト、別れた夫の事を語るシーンでは、誰もが、実際の夫だったハンフリー・ボガートを想起してしまうし(笑)。そして、忘れてはいけないのが、アルバート・フィ二ーの素晴らしさで、それまでは、イギリスの二枚目俳優だった彼が、凝ったメーキャップで、嫌味すれすれで名推理を行っていく"灰色の脳細胞"を、原作のイメージそのままに演じたのは、心底驚かされる。とにかく、原作を読んでいても、色々な楽しみが味わえる作品。と、ここまで書いてきて、ふと思ったのだが、最近、この映画を意識した作りの映画を観たような気が、、、そうだ、三谷幸喜の「有頂天ホテル」だ(笑)。えっ、ジャンルが全然違うじゃん!と思われる方、ニ作品を見比べて観て下さい。クレジットの出し方といい、豪華な俳優たちのアンサンブルといい、観客へのサービス精神といい、ラストの大団円といい、絶対意識していると思うけどなぁ。
アガサ・クリスティ ミステリーDVDコレクション 5枚組 【初回生産限定】
このBOX盤は、初DVD化1作品を、既発の3作品と組合わせるという、率直にいって、ユーザーにとっては理解し難い編成を取っている。既発の3作品は、いずれも2000年から販売されてきた有名なものばかりであり、7年も経っていれば、ミステリ・ファンの多くは、既にその全部又は一部を所有しているはずで、そんなユーザーが、初DVD化作品をどうしても観たいと思ったら、このBOX盤を買うしか選択肢がないというこの販売方法は、ユーザーの利益を全く考えていないといわれてもしょうがないだろう。
おそらく、初出作の単売だけでは商売にならないと考え、有名な既発の3作品とのセットにしたのだろうが、近年、続々と市場に出ているアガサの初DVD化作品の全てが、ユーザーが買いやすい方法で販売されてきているだけに(多くのユーザーのひんしゅくを買った「名探偵ポワロ」の新BOX盤でさえも、単売を併用していた)、このBOX盤の販売元には、声を大にして、苦言を呈したい。
さて、唯一の初DVD化作品「エンドレスナイト」は、1974年に始まるEMIの娯楽ミステリ4部作(「オリエント急行殺人事件」と既発の3作品)に先立つ1972年に公開された映画である。原作の「終りなき夜に生れつく」は、アガサお気に入りのロマンティック・ミステリの名作であり、原作の良さをそのまま映像化できれば、面白い映画になるはずと思い、観るのを楽しみにしていた。既発の3作品と比べるとキャストは小粒だが、原作の枝葉を削ぎ落としてそつなくまとめており、終盤の盛り上がりと、強烈なインパクトのあるラストは、素晴らしい。
スペースの関係で、既発の3作品についての詳細は省略するが、このBOX盤の評価自体は、純粋に4作品全体の作品評価のみで行った。既発3作品の詳細な個別評価は、各単売DVDの方にレビューを投稿しているので、関心のある方は、そちらの方をご覧いただきたい。
オリエント急行の殺人 (新潮文庫 ク 3-4)
クリスティと言えば、サスペンス作品の傑作「そして誰もいなくなった」と本格推理の傑作「アクロイド殺人事件」、それに本書の3つがとくに人気があるが、前2作品はともかく、本書については私は釈然としないものがある。
まず、ハッバード夫人の手荷物に入れられていた凶器のナイフ、あれは何のために入れられてたんだ?
凶器を隠滅するためでもなかったのだろうし、だからといってハッバード夫人に大騒ぎをさせたかったわけでもなかろう。
次に、これが一番不可解だが、なんで犯人はハッバード夫人の車室から隣のラチェットの車室に出入りしたんだ?
犯人は、偽の車掌の制服を用意できたぐらいだから、車室のカギも用意できただろうと本文中に語られており、また実際にカギを手に入れてラチェットの車室に出入りできたはずなので、わざわざハッバード夫人の車室からラチェットの部屋に侵入した理由がわからない。
それと、これはどうでもいいといえばいいのだが、ラチェットの秘書、ヘクター・マックイーンって結局何者だったんだ?
私は以上3点が釈然としないので、この作品を傑作とは認めがたい。
オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
本書はいわずと知れた推理小説の古典。推理のトリックももちろんだが、刊行年が1930年代とあって、歴史的な背景や人物の描写も大変魅了的。いまよりは、ずっと階級社会がはっきりしていた古きヨーロッパが偲ばれて、楽しめる。国際列車ならではの国際性もあり、多言語の世界が展開されているのも、なかなか興味深い。たんにトリック解きだけの観点からではなく、純文学としても高い価値を有していると思う。国際列車に乗りたくなった!
名探偵ポワロ 完全版 DVD-BOX 1
私は完全版ではないBOX1を持っていて、今回完全版のBOX2を購入しました。そのため抜けている作品がいくつかあるのですが、それは単品で購入しようと思っています。続けて一そろいで購入できないのは残念ですが、新しいものは、価格もディスクのデザインも前回のものよりいいようにな気がします。まだ買い終わっていない方には本当におすすめです。単品で買うときはちょっと面倒くさいですが、大好きなポワロさんを満喫するためにそろえていこうと思っています。