ボーイズ・ドント・クライ(初回限定バリュー・プライス)
ルーマー待望の第2作は何と全曲'70年代のカヴァー曲集。
前作では宣伝等にバート・バカラックの名が使われたが、今回聴いてみて感じたのはキャロル・キングをはじめとする'70年代の女性シンガー&ソングライターたちだ。'90年代以降の女性ヴォーカルとは明らかに違い、音的には'80年代、'90年代、2000年代をワープして'70年代からの直接の流れを感じさせる。シングルとなった"P.F.スローン"にしても彼の名は'70年頃洋楽を聴いていた人は多分御存知かと思うが、40歳代以下の人にはほとんど知られていないと思う。
歌詞・対訳は日本盤のみの収録だが、オリジナル盤のブックレットには取り上げた全曲の原曲が収録されたアルバムが写真付きで載っていて親切な作りだ。日本盤ボーナス曲を含め全17曲は1曲を除きベタなヒット曲を外し、かと言って全く無名でもない微妙(絶妙?)な選曲で、唯一の大ヒット曲であるホール&オーツの”サラ・スマイルズ”はヒット曲も加えてほしいというレコード会社の意向に沿ったものらしい。
他はジミー・ウエッブ、トッド・ラングレン、ポール・ウィリアムス、クリフォード・T・ワード、ギルバート・オサリヴァンらの曲が並んでいるが、何度も聴いているうちに味が出てくる地味な名曲が多い。
私は半分くらいの曲の原曲をLPで持っていて聴いたことがあるが、ほとんどの曲がルーマー風に見事に料理されていてあまり違和感がなく、これは前作の大ヒットをうけて急遽制作したような安易な企画ものではなく、彼女が昔から好きで聴いたり口ずさんできた曲が多いのではないかと思う。全曲が男性シンガーの曲なのはタイトルが"Boys Don't Cry"だからなのかも(?)。
1つだけ苦言を呈すると今回の日本盤のジャケット写真で、オリジナル盤と違った写真を使った意図がよくわからない。輸入盤はDeluxe Editionも同じ写真が使われているし、個人的にはオリジナル盤の写真の方が気に入っているだけに残念である。
ボーイズ・ドント・クライ【字幕版】 [VHS]
この映画は、主人公を取り巻く人々の激しさが色濃く、見終わった時には重苦しい気分にさせられた。主人公が痛々しすぎてたまらなかったからだ。男だとか女だとかは関係なく、主人公を巻き込んでいく出来事がある意味当たり前で、そこらじゅうに転がっていそうで、容易に自分を重ねることができた。望みも喜びも快楽も、葛藤も後ろめたさも恐怖も。
性同一性障害も性犯罪も、ニュースなどで扱われている。決して絵空事でないその現実が急にこの身に押しかかるような気がしてしまった。主人公を取り巻く人物たちが主人公に対して見せた笑顔。それがたった一つの嘘-主人公にとっての望み-が暴かれただけで変わってしまった。彼らにとって、主人公はモンスターだった。残酷な話だと思うのと同時に、出来事の数々は、とてもこの現実を映しているのだと思わせられる。友人たちに拒絶され、裏切られ、人としての尊厳さえも傷つけられる。精神的にも肉体的にも深い傷を負った主人公には絶対的な支えが必要だった。それが主人公の恋人の存在だ。ラストでの恋人とのやり取りでは少し慰められる。
憎悪犯罪は歪んだ考えからなる"偏見"から生まれる。その正当性の欠如、非人間性、そういったことを考えさせる。性同一性障害者を身近(家族、親しい友人など)に持つ人にこそ見てもらいたい映画だと思う。
ボーイズ・ドント・クライ [Blu-ray]
この作品は、「実話」をもとに製作されたという事が、その悲惨さをさらに深くしている。もし、主人公が2名の男と出会っていなければ、こんな結末にならなかったかもしれない。また、銃を簡単に手に入れられるアメリカだからこそ、余りにも悲しい結末にしている。主人公が抱えていた状況は、日本でも差別されてしまうかもしれないが、「死」に至る事は無かった筈である。誰もが見ておくべき映画だと思う。
boys don’t cry(ボーイズ・ドント・クライ) (角川文庫)
翻訳調の抑制の効いた文体で、淡々と語られる、80年代トーキョーのナイトライフ。岡崎京子の『東京ガールズブラボー』(宝島社)と、本棚に並べて置きたい。