日本合唱曲全集「祝福」木下牧子作品集
演奏団体は大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団といって、凄く巧い団体です。
おなじみの東混は音大出身者オンリーのせいか、
歌い方が独唱的で、一人一人は上手でも全体のまとまりを欠いているのに対し、
この団体は他の団体とは比べ物にならないぐらいぴったりと声が揃っていて、
とても重厚で柔らかく温かい、官能的とも言えるハーモニーを作り出しています。
ハーモニーが美し過ぎるため、無伴奏合唱曲集のはずなのにモテトゥスで使われるような通奏低音が流れているように錯覚してしまいます。
木下牧子氏の作品は皆独特なハーモニーを持ち、このハーモニーに魅かれる団体が多いのですが、
同時に特定の調や音階にとらわれないハーモニーであるため、音程が非常に取りにくく、愛唱している団体は多いのに、
完全に歌い切れている団体はほとんどありません。
そんな中で、このCDは木下牧子氏の作品を扱ったCDの中では、最高級のCDと言えるでしょう。
この値段では安過ぎる位の完成度です。
このレヴューを偶然眼に留めた方は、一生に一度の出会いと思って購入してください。
これを聴かずに生涯を終えたら、それは罪なことです。
個人的に私は「祝福(混声)」「棗のうた(女声)」「ロマンチストの豚(男声)」がおすすめです。
ちなみに、他の「日本合唱曲全集」シリーズでは一人の作曲家の組曲をいくつか選んで一枚のCDにまとめているのに対し、
このCDでは木下氏の無伴奏作品を属する組曲にとらわれずに集めています。
マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)
文庫本としては、超大作である。その厚さは驚異だ。しかし、その厚さ、そして長さは読み進めていく上であまり苦にならなかった。
南国ののどかな生活振りを伸びやかに描いている。一方で大統領まで昇り詰めた男の人生が綴られ、穏やかさと激しさが並行しながら物語が進んでいく。
私が気に入った部分は、インスタント麺に関する記述である。何を言ってるんだと思われるかもしれないが、著者の豊かな表現力を如実に表しているので、是非読んでみてほしい。本当に美味しそうなんだから。
長い文書を読むのが苦手な私でも夢中になれた。富と名声を手に入れた主人公は、どこかもの悲しい中年に思えた。ぎらぎらと輝く太陽の中に、極小の黒点を見たような気がした。
木下牧子混声合唱作品集
「ひょうひょうと、笛を吹こうよ・・・」で静かに始まる、本当に叙情的な歌です。川面を流れるヒメマスは我々自身でしょうか。この作品は、全楽章とも『絵画的』なんですね。1曲目の盛り上がりの「ガラス細工の夢でもいい、与えてくれと。失った無数の望みのはかなさや、遂げられたわずかな望みの空しさが、明日の望みも空しかろうと笛に歌っているが・・・」の部分は、本当にジーンときます。
2曲目の木馬、3曲目の「この夕べ・・・」ではじまる本当に夕日をバックに歌うべき佳作。そして最後の5拍子の「空を渡れ、碇を上げる星座の船団!」では、激しいピアノのパッセージに乗せて希望への賛歌が堂々と歌われる・・・。このコラムを読んでいる人で、合唱団に所属して全日本に出た経験のある人はいますか? この曲はいまだ一度も歌われていません。1曲目と最終曲を浪々と歌い上げれば、相当の賞がもらえると思うんですよね・・・。
スティル・ライフ (中公文庫)
私がこの本と出会ったのは、中学校の図書室だった。その頃、一番気持ちがうやむやする中学校時代を過ごしていた私が唯一心を休める場所がこの図書室だったのだ。ただどんな本があるかと眺めているだけで充分だった。この日もまたなんとなしにずらりと並んだ本を眺めていた私の目に入った文字が「池澤夏樹」だった。その時、よく姉が話していた名前が思いだされ、私はその本を手に取った。これがこの本との出会いだったのだが、それがそれからの私の生活、人生、考え方をも変える出会いになるとは思いもしなかった。そう、私は強い衝撃を受けた。淡々と書かれたこの文章になぜこうも魅かれるのか?教訓じみたことなど何も書かれていない日常のような空気のような奇妙なこの空間がなぜこうも希望に満ちているのか?中学校の人間関係に絶望していた私の毎日に変化が起きた。教室だろうがなんだんだろうが、毎日読んだ。自然と周りの目も気にならなくなった。この『とき』が、『空間』が至福というか日常というか私の生活だった。まるで一日をのんびり過ごすようにじっくり読んだ。中学校を卒業した今、私の脳裏に思いだされれる中学校生活は、友達と過ごした楽しい日々でもなく、辛かったテスト前の一夜漬でもなく、このスティルライフのなかにある。