冷血(上)
久しぶりの高村薫さんの新作で楽しみでしたが、宗教・政治・親子といった身体的なものを形而上的に捉えようとしていた三部作から一転、上巻を読んだ限りではレディジョーカーやマークスの山を彷彿とされるような重厚な刑事小説に仕上がっています。
一章で被害側と加害側が交差しながら、どちらにも感情移入させにくい仕掛けを施しつつ、肝心の事件の夜を飛ばして、二章で客観的な刑事の視点に移す手法はさすがだと思います。そこから出てくる合田刑事に感情移入していくものの、合田刑事シリーズの古くからのファンとしては、久しぶりの旧友の変化にアジャストしていくところが二章かと思いました。
下巻で、合田刑事がどこまで空虚な事件の内情に迫るのか、そこから言語が先に走る嫌いのあった彼がどのような言葉を紡ごうとするのかとても楽しみです。
中井貴一、萩原聖人はいい演技をしていると思ったが、原作者、高村薫の表現力が映画には現われていないような気がした。やはり2時間と言う限られた時間で高村薫の社会派小説のよさを引き出すのは無理かな・・と言った感じです。
冷血(下)
私個人として、現代作家の中で一番好きなのが作者です。ずっと読み続けていますが、前作の、オウム真理教を題材にした、仏教問答が多い、「太陽を曳く馬」は難しかった。正直なところ理解できないページも多く、何度も読み返し、読み終わるまで何ヶ月もかかり、ぐったりしてしまいました。「靖子純情」「新リア王」から比べても一気にある方向に進んだ感じで、このあとの高村さんの作品はどうなるのだろうかと、ちょっと怖いような、それでも、やはり期待の方が大きく、待ち続けていました。
そして最新作の「冷血」。週刊誌に2010年の4月号から連載されていたことは露知らず、通りがかりの本屋さんに、真っ白な表紙が平積みになっているのにハッと気づき、アマゾンで買って今日読み終わったところです。毎日1,2時間ずつ読んで、ちょうど1週間かかりました。
新鮮な気持ちで、まっさらなところから読んで欲しいので内容に関するレビューは避けたいと思いますが、2012年の最後に、高村薫さんの新作を読むことができて、こんな幸せなことはありません。しかし、一方、またもや深く考えさせられ、打ちのめされてもいます。
読み続けている日々、電車の中で、布団の中で、まわりの世界が違ってみえていました。被害者の生活があり、加害者の衝動があり、犯罪が起こり、警察が動き、やがて犯人が逮捕され、調べられ、裁判に臨む・・・・私の日常では、新聞やテレビで断片的に触れているような事件のひとつが、高村さんによって深く掘り起こされています。それを読みながら、私は日常の日々を過ごしているという矛盾。
同じ世界に生きていて、偶然となり同士になったとしても、まったく違う人生を抱えている他人がいるという当たり前の事実。同じ人間でも、多様な断片を持っているという、やはり当たり前の事実。そして偶然の出会いが、あっという間に殺人事件になってしまうという、酷さ。
「太陽を曳く馬」とは違って、全面的に登場している会田雄一郎警部の視点が読者にとっての救いです。彼自身も若い頃から比べると格段に思慮深くなっており、その自問が何とも言えない。
下巻は一気に進んでいきますが、何カ所か涙腺が緩みました。会田雄一郎警部の思いやりに、です。この作品では、誰も幸福にはならないし、誰も納得しません。それでも日々は積み重ねられて、ひとつの結末に向かいます。
高村薫さんのファンの方なら当然お読みになるでしょうが、多くの方にも、たくさんの書籍の中で選んで、ぜひ読んでいただきたいと願っております。
私は作品の中で語られた高村さんの思想を真摯に受け止めて、自分の今後の行動、他人との関わりを考えながら、死を迎える瞬間まで何とか生きていこうと思います。生きる、生きる、生きる、です。
太陽を曳く馬〈上〉
ストーリーについては、既に紹介されているので、重要な登場人物の末永和哉に関連して少々。
彼は精神疾患を患っているためか、周りの僧が経験出来ない所まで禅の観が進んでしまい、それを取り巻く議論が(マーク・ロスコ風絵画論にも絡んでくるのですが)、いまひとつピンと来なかったのです。
先日たまたま ted.com で、Jill Bolte Taylorと言うハーバードの精神科研究者が自らの脳内出血に起因する、脳の左右が一時的に分離する脳機能障害の経験を(その後8年かけて回復)、あれは涅槃であったと、表現するのをみて、ひょっとして末永が観たのはこれに近い経験であったのではないかと思いました。このTaylor女史の話を聞いて読み直すと、少々長い下巻の議論が、リアリティを増して読めました。
高村薫の本は、10年ほど前に友達からお前と同じ大学だろうとレディージョーカーを貸してもらったのが最初です。3学年高村さんが上ですので知っているはずは無いのですが、その後新聞で高村さんの写真を見て、一瞬で思い出しました。人気のない、照明がまだ灯いていなく薄暗い学生会館の暖炉の傍に一人で座っていた三つあみ、緑のセーターの学生の強い視線が何故か網膜に焼き付いていました。
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パイパンは明らかに肌の色の違う人で、他は没個性的であった。
でもその明らかなギャルな人があんまり影が薄かったなあ。