ラーゼフォン―夢みる卵 (MF文庫J)
アニメの外伝的なお話。アニメ本編では直接描かれなかった、登場人物の過去やバックボーンが短編集の形式で語られる。そこでは、アニメでは完全な脇役であった三輪忍が主役を張ってたりするお話もあるので非常におもしろい。
だが、やはりこの「夢みる卵」に一貫して描かれているのは奏者として生まれながら、親、恋人、使命等の人が当然に望むものを何一つ得ることのできなかった、如月樹の悲劇だと思う。アニメ版で垣間見えた樹というキャラクターの悲劇がより奥行きをもって感じられる逸話が特に印象に残る。(テレビ版の時から僕は樹というキャラが好きでしたが・・・)
スポットライトを浴びた本筋から逸れたキャラクターの心情や動きを細かく描いているところが「ラーゼフォン」という作品の魅力だと思うので、その奥行きを更に広げてくれる一冊としてファンには大いにオススメ。特に「眠り姫」「シンデレラの聖夜」とか・・・
これは私論だが、テレビ版とこの一冊で「ラーゼフォン」じゃないだろうか?多くのキャラをオジャンにしてしまった映画版のことは忘れて・・・
ラーゼフォン 第6巻 [DVD]
6巻収録の「子供たちの夜」。ラーゼフォンの中でベストなエピソードとしてお勧めします。演出の磯光雄さんはアニメーター出身の方で、劇エヴァのアスカ対量産機のシーンを作画された方だそうです。「子供たちの夜」はドーレムの遺跡と奏者として育てられた悲しい少年との友情の物語。私は、アニメであれ実写ドラマであれ心に響くものがあれば其れで良しと思います。磯光雄さんの次回作に期待しています。ぜひご覧ください。
磯光雄さんの監督作電脳コイル (1) 通常版やっぱりね。
ラーゼフォン オリジナルサウンドトラック2
オリンの歌・・・それは世界を広げるインストゥルメント。恋によく似たもの・・・。世は音に満ちて。 (訳)えー。簡単に言うとこのサウンド・トラックを聴くとよりラーゼフォンの世界が広がるということです。というか久遠(桑島法子)が好きなら買っても良いんではないでしょうカー。星が一つ少ないのはそういう理由で買ったらサウンド・トラック3も買わなきゃならなくなるからです。3にも久遠の新しい歌入ってますからねー。(了)
ラーゼフォン Blu-ray BOX
このアニメは難解なストーリーだといわれていて、その難解さ故に不当に作品の評価を貶められている(らしい)が、大事なところはそこではないし、なんてことはない、これは「恋」と「SF」を中心に据えた物語なのだ。
人は人を好きになって恋に落ちる。少年と少女の恋愛、それがSF的な設定を通して描かれている。「ロボット」「時」「血」「世界」、それまでのアニメーションのどこかでみた「要素」が作り手の想いと技術をのせて事細かに作られ「調律」されてゆく。
そして登場する人それぞれに物語があって、一人の人間として描かれる。彼・彼女らには世界を調律、再構成するための物語上に必要な単なる「要素」として以上に人間らしさが吹き込まれている。キャラクターという要素を人間に昇華させ物語を調律した。それ故にこのラーゼフォンという物語は傑作なのだ。
これらは脚本であったり、演出であったり、作画であったり、演技であったりと、優れた作り手により一つの解として再構成されたアニメーションであり、また彼らの手を離れてもひとつの作品としての完成度は高い。
そうそう「調律」の概念のある通り、この物語では「音」がキーにもなっている。題名に「フォン」とあることからそれは明らかなのだが、たとえば劇伴のジャズをベースにした表現の仕方、これらは単なるオーケストレーション的高尚さよりもどこか人間的で、また劇伴作曲者自らがキャラクターを、人間を、その艶やかな「声」を通じて演じているところもとても面白かったりする。