三つ首塔 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
横溝ミステリーお得意の、遺産相続を巡って次々に殺人事件が起こってゆくという展開です。書き方の手法には、現代ミステリー作家が大きく影響を受けていると思いました。
横溝ワールドにどっぷり浸かり過ぎると、日常のあらゆる所で事件が起きそうな気になって来ると思うので、その辺には十分注意して下さい。例えばチョコレートを食べる時に、「これは毒入りかも」と疑ってかかるようになってしまうかも知れませんよ(笑)
獄門島 [VHS]
間違いなく代表作ですね。
金田一ファミリー(と言っても良いでしょう)おなじみの役者さん達がキャラ強くエンターテイメントしてくれています。楽しめます。最初は感じなかったのですが観終わった後で、重く残るのが冒頭のナレーションで『島名の由来』を語る部分でした。まあフィクションですから・・・。
瀬戸内の島は何度か旅した事がありますがどこも良い所で、出会う方皆暖かく歓迎していただきました。金田一になったつもりで『獄門島ツアー』などいかがでしょう?勿論、一人旅ですが・・・。
獄門島 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
あくまで、個人的見解では、ありますが、横溝正史著『獄門島』は、パズラーの最高峰の高見に上り詰めた作品といえるでしょう。これ程の作品は大横溝でも2度書けなかった。それぐらいバランスがいい。あるいみ神懸り的な作品です。もっとも50年以上も前の作品を持ってきて「最高です!最高です!」と連呼してもあまり意味がないかもしれない・・・それにそれを連呼することは、それ以後のミステリ作家の努力を軽視しているようで失礼な気さえする・・・しかし、このバランス感は捨てがたい・・・それぐらいパランスがいいのです。
犯人が仕掛けるトリックや解明のプロセスは、爪が甘かったりして「こんなにうまくいくのか?」という疑問がないわけではありません。こうした点は横溝正史というひとは甘い部分があって「エラリー・クイーン」だったらもっと緻密にするだろう、怪奇趣味もカーならもっと過剰に書くだろう・・・しかし、細部の不満が全体としては欠点になっていない。全体の構成の上手さが細部の欠点をカバーして、気にならない仕上がりになっています。なによりも人間が生き生きしている。題名からおどろおどろしい印象を受けがちですが、むしろ全体的に明るい雰囲気さえ漂っている。山狩りの場面で金田一耕助と床屋の清公の掛け合いに思わず、ニヤリとしていまう・・・しかし、この部分が解明の重要な伏線になっていて非常に上手い。全体として描写や登場人物に無駄がないのです。また、『本陣殺人事件』でもそうでしたが、トリックが犯人の人間性と有機的に結びついていてトリック自体が犯人を象徴している点は驚嘆に値します。トリックから逆算してプロットを組んだと思わせないのプロット作りの手際の上手さがあり、結果として人間関係や諸々の出来事の重なりから事件が起きているのだという印象を受ける・・・いわゆる日本人が考える「黄金期のパズラー」でなく「モダーン・ディティクティブストーリー」であり、少しも古くなっていない。恐るべき作品です。「横溝はカーの影響が・・・」がとよく言われましたが、むしろ、作風自体はクリスティに近い。クリスティ好きなら間違いなく感服するでしょう。
もっとも、評論家的な立場に立った時は、『獄門島』は横溝正史の最高作であると断言するのですが、個人的な趣味でいうと、『犬神家の一族』『悪魔が来りて笛を吹く』の方が贔屓だったりする・・・この辺が個人の趣味で難しいところですね・・・
追記:「獄門島」といえば、動機が弱い。テーマになっている仕掛けをする必要があったのか?という疑問がよく口にされます。ああ、個人的にはなんて浅い読み方であろうと思うのです。テーマの部分を取り上げれば厳密に云えば、必然性はなかったとしか言いようが有りません。にもかかわらず、一見、無意味でしかないことががなぜ起こってしまったのか?「なぜ」の為に、横溝が苦心して舞台を作り、人物を配置し、プロットを組んでいることに気付いていないのでしょうか?批判者がこうして点を見逃しているとしたら、不幸としかいいようがありません。いうならば、非合理的なことにリアリティを持たせるために、あの世界が必要だったのです。再読時にこのことをわかっていると第一章からすでに横溝の大胆なの手際がみられ感嘆するにちがいないのですが・・・・
加えて、「動機」について、「今ではこうした事件は起きないよ」という人。「獄門島」や「網元」といった部分を「会社」「国家」「組織」「家族」に置き換えてみてはどうでしょう?本当にこうした事件は現代では起きないのですか?私には、松本清張の「点と線」にはリアルティがあって、「獄門島」にはリアリティがないというのは、どうも理解できません。たしかに現代においてストレートに「獄門島」で提示された動機で事件はおきないでしょう。しかし、人間が組織と無関係で生きられないの今も昔も変わらない。ゆえに、本質的には「獄門島」的動機は、今の社会にも確実に存在するのです。
そんな訳で、今のなお私の中では「獄門島」の犯人はリアリティをもって存在しているのです。2011/6/11
悪魔の手毬唄 [DVD]
金田一シリーズの映画化作品の中で、この「悪魔の手鞠唄」は最高傑作である。
映画の冒頭から十数分程度で、鬼首村の複雑な人間関係と登場人物をテンポ良く説明し、まるで焦らすかのように、ようやく出るタイトル。
これで観客は一気に物語に引き込まれ、そしてこのとき流れる切なく物哀しいテーマ曲が、この映画の全てを語っている。
また、金田一が仙人峠を登り始める際に流れるコミカルなBGMが、老婆の登場で一気にトーンが下がり、何とも言えない不気味さを醸し出す演出が素晴らしい。
俳優陣は、他レビュアー絶賛の若山富三郎と岸恵子の存在感と演技はもとより、常連である立花警部・加藤武を始め、村医者・大滝秀治、旧家の奥様・草笛光子と白石加代子、そして三木のり平とその妻・沼田カズ子などは、マネの出来ない味わいを出している。
リメイクできないのは若山富三郎と岸恵子に代わる現代の役者がいないと言うレビュアーに賛同するが、脇役の三木のり平一人あげても代わる役者は皆無であろう。
脚本、演出、キャスト、音楽、全て満足できる金田一映画化シリーズの最高傑作である。
犬神家の一族 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
ある一箇所において起きる殺人事件の小説が大好きです。「犬神家」は那須湖の存在がとても大きいと思います。
余韻の残る終わり方や、ヒロイン珠代も良かったです。
小学生の時に見た映画では、湖面から突き出た2本の足という有名な場面と、印象的な助清のマスク姿が忘れられません。