ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石 (中公新書)
おそらく普通の旅行者が、これを持ってブリュージュに出かけたとしたら、周りの風景の全体像をトータルに受け止める前に、足が一歩も前に進まず、大学の教養課程の授業を受けているようで、頭が痛くなってしまうのではないでしょうか。巻末のお勧めをくくっているうちに、割り当てられた一日が、あっという間に過ぎてしまうのかもしれません。といってもいいほど、ドライな本です。この作品は、むしろ中世のこの場所に生み出された都市の生誕についてのミニ百科事典のようなものです。数回この街を訪れたことのある私は、まるで大学の紀要誌を読んでいるかのような印象を受けたほどです。巻末にも、専門書としか思えないような、外国語(英仏)の参考文献が満載です。確かに、政治と歴史、地理と地勢、都市の誕生、国際都市としての人の混在、生活、芸術(音楽や絵画)、どれについても相当の知識が詰め込まれています。そして、注意深く読んでいくと、その背後には、それらを整理する著者の独特の視点(都市、中世、欧州についての)が伺われます。ところが、悲しいことに、面白くないのです。ページがまったく前に進まないのです。どうしてなのでしょう?街自体はあれほど観光客がおとづれるわかりやすい場所なのに?これは、相性の問題なのでしょうか?ところで著者は、同じ中公新書のあの”ステファン・ツヴァイグ”の著者のご子息なんですね(あとがき)。確かに、この2冊の間には共通するものがあります。