鉄腕アトムは実現できるか?―ロボカップが切り拓く未来 (カワデ・サイエンス)
まるまるアトムの話というわけじゃない。例えばの話で必要に応じてアトムは出てくる。人工知能は感情や身体があってこそという話や、コンピュータに「コップを持ったら下の机はいっしょには持ち上がらない」といった常識をすべて教えなければならないという「フレーム問題」の話など、ロボット研究の基本かつ中心的な話をして、アトムのようなロボットを作るにはどんなことが課題になっているかを説いていく。
書き下ろしが半分くらいと、著者へのインタビューが半分くらい。どちらもそんなに難しくなく、スラスラ読めた。聞き手も的を得た質問が多く、読んでてさらに突っ込んで聞きたいと思うことをちゃんと聞いてくれた。
著者は「ロボ・カップ(ロボットのサッカー世界一決定戦)」の運営者ということで、ロボットにサッカーをさせた場合人間との能力の差がどれだけあるかといった話を詳しくしてくれる。コンピュータはすでに人間のチェス王者を破っているが、今後は2050年までにロボットのサッカーチームがワールドカップ優勝国に勝つという目標を掲げているのだそうだ。
フレーム問題にしたってひとりの人間が宇宙のありとあらゆることを知っているわけじゃないんだから、ロボットにも完璧を求めないほうがうまく行くのかも、と思った。人間は判断ミスや失敗をする→人間に似たロボットを作る→ロボットも多少のミスはOK! といったゆるさだ。しかしながら、次の一節を読んで、ドキリとしたのも確か。
「この人間は悪いことを考えているから殺してしまったほうがいいとそのロボットは思うかもしれません。恐ろしいのは、それは社会的に見れば正しいことかもしれないということです」
ゲームプログラミング
ゲーム理論、チェス、五目、倉庫番などの各種ゲームの「考え方」を総ざらい上澄みだけを舐めたい方には最適です。元々は探索技法に興味が在って買ったのですが、細かい事は書いていません。当時から比べるとソフトウェア技術も上がってますので、この本を教科書にするべきではないかもしれませんね。それでも良い本だと私は評価します。
アマトップクラスに迫る―コンピュータ将棋の進歩〈5〉
1980年代の後半から始まったパソコン通信によるコンピュータ将棋プログラムの対局は、
2005年にはついにアマチュア5段を超える棋力になった。
レーティングの比較で例えるなら、プロ棋士の養成機関である奨励会に所属する棋士とほぼ同等である。
著者いわく「プロ棋士を含め、このレベルのソフトウェアに勝てるのは500人もいない」とのことだ、ものすごい時代になったものだ。
実際、コンピュータ将棋の世界選手権はプロの高段者やタイトルホルダークラスの棋士が、棋譜の解説を行っている。
本書には、コンピュータ将棋界でトップクラスの強さを誇るプログラムの作成者が、自身のプログラムについてかなり具体的な解説を載せているる。
コンピュータ将棋のプログラマーはもちろん、コンピュータサイエンスに興味のある人や、
人間とコンピュータの協働の可能性を夢見ている人も熟読の価値があると思う。
AI 事典 第2版
AI関連のトピックが網羅的に挙げられており、こんなものも
AIの研究に入るのかと驚かされるほど、その扱っている領域は
広い。まさに事典であるが、それ以上に様々な執筆者の考えや
研究に対する思いを知ることができる良書である。
例えば、溝口の「エキスパート・システムを作る」では、彼の
エキスパートシステムにかけた思いや、そこから得られた研究
スタンスなどを垣間見ることができる。全てではないが、各執
筆者の思いがこのように随所に見られ、各分野について、それ
ほど詳しくなくても飽きさせない。
本書はAIのことを知りたいという人にお勧めの”読み物”で
ある。
先を読む頭脳
本書では、羽生氏が「良い手を見つける」「形勢判断する」というような将棋における思考方法を分かり易く言語化しており(羽生節炸裂!)、それを人工知能専門家(松原仁 氏)・認知科学専門家(伊藤毅志 氏)が解説を加えるという形態を採っています。初級者〜中級者とプロとでは思考の仕方がどう違うのか、人間とコンピュータの思考の違いはどうなのか、という点についてかなり踏み込んで語られていて興味深く読めました。将棋・囲碁で「筋が良い」とかいう言葉がありますが、そのような審美眼・大局観(という言語化しにくい「暗黙知」)がやっぱり重要だな、と気付かされます。この辺りを読んでいると「上達の法則」(岡本浩一)や「『超』発想法」(野口悠紀雄)などの本を思い出したりしました。"理詰め"と"感覚"のバランスが重要ですね。
また"Thinking about thinking improves thinking."(ノーベル物理学賞・ショックレー教授)という言葉も思い出しました。思考について考えると、より良い思考が出来るようになる、といった処でしょうか。本書を読んでいると、個々の情報単独では決して得られないモノ、つまり各情報間の連関から生じる新たな情報("メタ情報")を掴むことが重要だな、と気付かされます。(Googleの検索エンジンの仕組みみたいな。そう言えば、羽生氏は「ウェブ進化論」(梅田 望夫)の書評も書いてましたっけ) そのようなメタ情報およびその加工法に関する人間独特の「暗黙知」を如何に「形式知」として表出化出来るのかが今後の課題ですね。(「例題:"0→2"、"5←2"の時、"0□5"の□には←か→のどちらが入るか」には唸りました)