ルパンの消息 (光文社文庫)
奇想的シナリオもさることながら、登場人物の巧みな描写に引き込まれる。
心に湧く漠としたもの、脳を支配する思考、全ての動きを克明に動機付ける表現力は作者の天性の心理洞察力によるものか。
主人公は理由も判らず警察に連行され、15年前に母校の女教師が自殺した一件について執拗な聴取を受ける。
警察側、参考人共に過去の因縁に翻弄され、事実究明へのもつれた糸は遅々として解れる様相を見せない。
犯人は? 動機は? 方法は?
向こう見ずで多感な青春時代の回想シーンと息詰まる事情聴取
結末が見えたと思いきや、二重底により隠された真実が・・・・。
読後、これほど余韻を残す物語あっただろうか?
若き日に読んだ標題の作品以来の傑作であると信じて疑わない。
ルパンの消息 [DVD]
警察の取調室。聴取を受ける事件参考人の供述から、事件の闇に光が射し、取り調べを受ける彼らの関係と人生が浮かび上がってくるラスト30分の展開。ここがものすごく良くて、心を揺さぶられました。それまで淡々と進んでいた複数の参考人の話が、終盤で一気に寄り集まり、収束するシーン。凄かったなあ。涙が出てくるのを止めることができず、泣きながら画面に見入っていました。
事件捜査の指揮を任された刑事・溝呂木を演じる上川隆也を筆頭に、それぞれの役者の演技も好感度大。内に熱い捜査魂を秘めた刑事を演じて魅せた上川隆也のほか、とりわけ、羽田美智子(日高鮎美役)、佐藤めぐみ(秋間幸子役)の演技が魅力的で、印象に残りました。
WOWOWの「ドラマW」シリーズの一本(2008年9月21日放映)。
見終えて感動。横山秀夫の原作ルパンの消息 (光文社文庫)も読んでみたくなりました。
第三の時効 (集英社文庫)
以前に読んだ『影の季節』と『動機』から受けたインパクトが大きく、自然と次なる作品に手が伸びた。本書にはタイトルの「第三の時効」を含む計6本の短編が所収されているが、すべてを読み終えると1つの繋がりをもった長編小説としての体裁を十分に整えているという印象である。すべての短編がすでにテレビ放送化され、なんとなくテレビを通じて見ていた光景が浮かんできた。私としては、「第三の時効」という謎めいた、そして意外な真犯人を暴き出す巧妙な仕掛けを巧みに描いた作品以上に、「密室の抜け穴」と「ペルソナの微笑」がとても興味深かった。長時間に及ぶ会議、いやその会議が行われている会議室それ自体が実は「密室」であったという結末には驚嘆したし、そこへ至るストーリー展開も見事である。「ペルソナの微笑」は、その構想をどのような経緯で思い付いたのか是非とも知りたいと思った作品である。子供を殺人の「道具」に利用するという悪質極まりない犯行ではあるが、それを(学生時代に落語研究会に所属していた)刑事の言動がそれを冷静にさせ、後味のよい締めくくりになっており好感が持てた。「囚人のジレンマ」という作品も、この言葉が経済学のゲーム理論のなかに登場する重要な概念として使われていることもあり、その表現が有するリアルな臨場感を味わうことができた。警察機構、特に捜査第一課強行犯係の3つの班同士が抱える熾烈な葛藤や、それを束ねる刑事課長・部長の内面を鋭く炙り出す作風と文体に、多くの読者が惹き込まれるだろう。すべての作品がその「出だし」からすんなりとわれわれを横山ワールドに引き入れる神秘的ともいうべき雰囲気を醸し出している。巻末の「解説」には、本書の諸作品を貫いているのが、手柄を競ってせめぎ合う刑事らの「心理的ダイナミズム」の鮮明な描写であると書かれてある。「心理的ダイナミズム」、この言葉で作品の理解が更に深まった気がした。
出口のない海 [DVD]
過去の悲惨な記憶を風化させてはいけない。そんな想いを全編から感じる。
小畑を演じる黒田勇樹の短髪姿がチョット意外だった。小畑は入営前に「学生は勉学が本分…。職業軍人にはなれない」と言ったが、当時の若者も自らの、そして未来の社会を信じて勉学に励んできたはず。国家の都合で戦争にかり出された若者は、国や家族を守るためとはいえ、少なからず無念を抱いて死んでいったろう。
唯一の休暇で自宅に帰った並木は、小畑のグローブを受け取るが、帰隊後キャッチボールをする時グローブに小畑の名前が映し出され、あの穏やかな笑顔が浮かんで涙を誘う。
ラストでは、並木が残された者に託した想いが読み上げられる。エンドコールを眺めながら死んでいった者の無念と残された者の絶望を想い、そして絶望からはい上がって、今の日本の礎を作った偉大な先輩たちを想った。
並木の恋人として美奈子を上野樹里が演じているが、この手の映画ではどうしても女性はワキとして抑えた演技を要求される上、女性的な美しさを制限されるため、あまりいい印象はない(特典DISKの制作発表ではずいぶん派手なドレスだったが)。
並木の投手練習に元巨人の鹿取義隆が当たっている。鹿取は明治大学OBであり、この映画の趣旨に賛同したから。並木がサイドスローなのはそのせい(?)。
魔球を完成させた時の並木の青年らしい笑顔に泣かされた。
メインテーマのピアノと主題歌「返信」が似ていると思ったが、特典映像で加羽沢美濃さんが両曲を同じような手法の、コード進行も似ていることに感動したと語っていた。この映画を見た二人の音楽家が同じような想いを共有して、似た曲ができたということ。
クライマーズ・ハイ
あの御巣鷹山のジャンボ事故を追った記者たちの熱い夏の物語!
待ちに待った新作でもあり一気によみあげました。
「半落ち」の中尾洋平が気になってしまった人は必読です。
「事件屋」稼業の男たちの矜持や妬みや情熱が、未曾有の大惨事の混乱と熱狂で暴走していく様は圧巻です。
誰もが暴走していくなかにも丁寧な心理描写が伴奏のように流れていき読後はなにかすっきりしました。
寄生虫みたいな幹部や、昔の栄光だけをひけれかす古参記者などは、
一見典型的な悪役かと思わせつつ、陰影にとんだサイドストーリーあり。
うーん職人技。
トリック的な伏線は多くないですが、心理描写と台詞でよませます。
山に来ると不思議と正直になるのはなぜだろうか、との問いへの答えがこの世の最後!の会話になるかもしれないと無意識に思ってるから・・・という台詞にはしびれました。
買って損はしません。