Pentangle
バート・ヤンシュとジョン・レンボーンによる緻密なギターアンサンブルをダニー・トンプソンとテリー・コックスというジャズ畑のリズム隊が支え、ジャッキー・マクシーのクールで透明感のある歌声が漂う・・・それぞれの楽器や歌声が緊密に絡み合い、不思議な間合いと何とも言えない緊張感がアルバム全編を貫いている。
ブリティッシュ・フォークの文脈で語られることの多いアルバムではあるが、私の知る限り、これに似たアルバムはフォークでもその他のジャンルでも出会ったことがない。(強いて言えば、ラルフ・タウナーのソリスティスなど、ECMの録音に近い感覚ものがあるかもしれないが・・・。)まさにワン・アンド・オンリーなアルバムなのだ。
このアルバム以降、ペンタングル自身がこのファーストで持っていた、聞き手を突き放すかのような音の孤高性や独特な緊張感を徐々に失っていき、親和的な音楽に変化していく。もちろん、それはそれで良いものであるし、3rd.「バスケット・オブ・ライト」や4th.「クルーエル・シスター」での達成は素晴らしいものであるが、ペンタングルの音楽の持っている可能性が凝縮されているこの1st.が私にとってのベストだ。
2001年の英キャッスルによるリマスターで、音が格段に良くなった。また、ボーナストラックはこのアルバムに関しては蛇足であるが、以前からのファンにとってみれば興味深い聞き物になるだろう。
Time Has Come 1967-1973
BBCの「ロスト・ブロードキャスト」も十分に事件性はあったが、このボックス・セットは、長年のペンタングルのファンにとっては明らかに事件である。裏を返せば、事件を起こすべく発表されたアルバムとも言える。全65曲中、半数以上がオリジナルのアルバムには未収録であり、ボーナス・トラック等で既出のものを除外しても、まだ20曲以上が未発表音源なのだ。殊に、噂には聞いていた映画「タム・リン」のサウンド・トラックが聴けるとなると、事は重大であり、コアなファンにとってはあだや疎かには出来ない。
映画「卒業」ではS&Gの音楽が印象的だったが、同じ効果を期待して、BBCで新しく始まるテレビ・ドラマのテーマ曲がペンタングルに依頼される。それが評判になり、「タム・リン」のサウンド・トラックの話がもち上がったというわけだ。しかし映画の評判が思わしくなく、サントラ盤の話が立ち消えになったため、このボックスにはフィルムから直接起こしたものが収録されている。編集で繋ぎ合わされているとはいえ、テーマ曲の「タム・リン」は、演奏といい、ジャッキーのヴォーカルといい、何とも神秘的なヴァージョンを聴くことができる。
アルバムについて難を言えば、これは観賞用ではなく、あくまで'67〜'73までの5人の活動を俯瞰するための資料であり、ディスク3の「ライヴ・アット・ザ・ロイヤル・フェスティヴァル・ホール」の編集に端的に現れているように、それぞれの曲間に有機的な繋がりがなく、自然な流れを欠いてしまっている。が、それは仕方がない。事件なのだから。この事件を聴いて心動かされるもよし、冷ややかに受けとめるもよし、である。
私としては、「タム・リン」と、「ウィリー・オ・ウィンズベリー」のライヴが聴けただけで、十分に心動かされる事件であった。
Basket of Light
私が初めてペンタングルを聞いたのは、英語の先生のバラッド(民間伝承歌)のセミナーで、曲はこのアルバム中のLyke-Wake Dirgeでした。ジャッキー・マクシーのきれいな声とバラッドをベースにした曲の良さでとても気に入りました。またバラッド演奏という観点からは、演奏力は図抜けていました。アコースティック楽器だけで演奏しているのですが、アルバムを通して聴くと曲調にさりげなくバラエティがあって、何年経ってもまた聴きたくなってしまいます。このリマスター盤では、オリジナルLPのジャケット見開き部分に書かれている内容なども丁寧に採録されていて好感が持てます。Cruel Sisterのアルバムでは正統的なバラッドに忠実な部分が多くその美しさを出しているのに対して、こちらBasket of Lightは短くポップス的に聞ける曲が多くなっています。伝承とポップさ・現代性とのブレンドぶりは絶妙です。