舞姫 [VHS]
舞姫は、森鴎外の代表作で「自伝的」要素もあるので、主人公(大田)を誰が如何に演ずるか、が最大のポイント。篠田監督は、郷ひろみという「意外性」(ミーハー的興味)に賭けたのだろう。その賭けは半分当たったと言えよう。脇役たちが「戯画的」に描かれる中、中心人物達は実に「シリアス」に描かれている。郷も独逸語の特訓を経た様子が窺われるし、懸命の演技が好感を与える。監督は「写楽」でも葉月里緒菜を起用する等、芸術性と娯楽性を上手くミックスする手腕に長けている。ひろみ郷の新境地開拓と言って良いだろう。
山椒太夫 [VHS]
玉木役の田中絹代や、唯一女優らしい輝きをはなっている安寿役の香川京子をさしおいて、登場時間の一番長い厨子王役の花柳喜章の五頭身がとにかく気になってしまう作品だ。安寿の入水自殺シーンを除いては、宮川一夫のカメラも、ベテラン女優とデカ頭男優の前では真価を発揮しきれていない。
本作品にはもう一つ鼻につくところがある。それは、世界市場を睨んでいるジブリ映画のような、とってつけたような押し付けがましい倫理観だ。「人は等しくこの世に生まれてきた。幸せに分け隔てがあってはいけない」と説く厨子王の父のリベラル発言には、どうも外国人インテリ層の目を意識した溝口の計算が感じられてしまう。厳しい撮影現場で、数々の差別的発言を残した溝口の本心から出た言葉とは到底思えない。
映画冒頭と中盤に登場する敷石を思わせる石造物がある。時間の経過を伝えるシンボルのようにも思えるが、何の説明もされていない分かえって気になってしまう存在だ。饒舌に言葉で繰り返されるテーマよりも、何も語られない映像の方が、時として力を持つことがある。