永遠の森 博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)
SF文学の役割の一つは、現実の一側面を架空の技術という道具立てにより際立たせ、より理解しやすい形で読者に見せることであろう。その意味で、本作品は実にSFらしいSF作品である。データベースを脳に直接接続した学芸員の日常というストーリーを通し、人と芸術とのかかわりについて考えさせられた。私にとっては、芸術論の良い入門書となった。
しかし、本作品の一番の魅力は、そんな小難しいことではなく、ミステリ仕立てのストーリー展開と、優れた文章によって喚起される美しい情景である。短編で構成されてはいるが、それらはすべて最終章へとつながっており、主人公に感情移入することができれば、読者はラストで大きな感動を味わうことができると思う。
こんなすばらしい作品が、日本語でしか読めないなんて、実にもったいない。誰かが英訳し、全世界に紹介してくれることを切に願う。
五人姉妹 (ハヤカワ文庫JA)
どの話も文句なく面白かった。自信を持って満点を入れる。「永遠の森」も素敵だったが、個人的にはこちらを推したい。表題作はクローンを扱った話で、あり得たかもしれない自分、というテーマを実に見事に料理している。日本のSF作家で、今一番、旬な人はこの人ではないか。