グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
仮想世界のリゾートというプロットは確かに今では珍しいものではないかも知れませんが、現実世界と断絶されているということ、また謎の敵に世界を侵蝕されていくというストーリーは、最初から最後まで飽きることなくグイグイ引っ張られていきます。あちこちに複線が張られており、最終章に向かって徐々に複線が解かれていく流れ、「あぁそういうことだったのか!」という驚きが最後までずっと続いていきます。こんなに面白い SFは近年読んだことがありませんでした。
多少グロテスクな描写があるため、苦手な人には注意。ただし僕は強くオススメします。
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
ハードSFというよりは幻想味の強い4つの中短編を収録した一冊です。
表題作の「象(かたど)られた力」は、地球化が進められた惑星「百合洋(ゆりうみ)」が突然消滅。その背後には惑星独自の図形言語の謎が存在していると見られ、その解読がイコノグラファーのクドウ圓(ひとみ)に依頼される、という物語です。
豪華絢爛ともいうべき破壊描写と、しびれるほど甘美な暴力に満ち満ちた終盤は、言葉が織りなす力の奥深さをこれでもかと見せつけ、まさに圧巻というべき展開です。作者独特のこの物語世界は人間業とは思えないほど超絶的な想像力によって創りあげられていて、それを前にして私は目が眩み、果てには恍惚感すら味わいました。そして、森羅万象のめくるめく急激な変転を、無理なく一気に読ませるだけの豊潤な言葉を立て続けに繰り出す作者の力に、畏敬と憧憬の念を抱いたのです。
別の一編である「デュオ」は、ひとつの肉体を共有する双子の天才ピアニスト、デネスとクラウスのグラフェナウアー兄弟と、そのピアノ調律師として雇われたオガタ・イクオが主人公です。兄弟とかかわるうちにイクオが味わう不思議な体験の背後に、双子の隠された出自がある、という物語です。
兄弟が奏でる甘美な曲と、彼らの秘密とが、これまた研ぎ澄まされた言葉によって輪郭鮮やかに構築されていくさまは見事です。そしてまた、その纏綿(てんめん)とした謎がほどけたときに立ち現れる、作者の創造する天地のあまりの奇想ぶりに、私は軽い酩酊状態にも似た心地に陥ったのです。
2005年版「SFが読みたい」の国内作品第1位、第26回日本SF大賞、2005年星雲賞(日本短篇部門)と、数々の賞に輝く作品だけのことはあります。衝撃的な破壊力が言葉によって紡ぎ上げられる、まさにその現場を目の当たりにした高揚感を味わうことができる短編集です。
ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)
待つこと四年、四年ですよ。完結編が出るのは2010年でしょうか、なんだか出そうにないっぽいですね。
しかし、四年待たせるぐらいの価値はありますよ、このシリーズ。エンターテイメント系の小説は、文章を自分が物語を語るための道具にしちゃっているような気がして、最近遠ざかっていたんですけど、こういうのが出るから油断できない。華麗な文体、やっぱエンタメでも文章うまくなきゃ、絶対だめですよ。文章が作者の想像力をさらに増加させ、より楽しませてくれますから。
この人独特の残酷さと美しさが見事に調和した短編群。特に、表題作のラギッド・ガールはすごすぎる。著者自身が最高傑作、と言っております。2006年度、エンタメナンバーワンでしょう。
今のエンタメの作家では、飛浩隆と古川日出男が飛び出てるんじゃないんでしょうか。