族長の秋 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)
私は、この小説の冒頭の最初の1行目に目を通した瞬間に、脳みその細胞がパッチンとはじける音を聞き、4行目にに至る頃には脳みそ中の細胞が次から次へと、パチパチ目覚めていくのを感じた。
その時の心の叫びを再現すると、「かっちょえぇぇぇ!!!」というところだろうか。
ガルシア=マルケスは天才である。
物語はある国の独裁者として君臨し続ける大統領の話である。
数々の奇行、独裁的で残酷な行為などが繰り返されるが、マルケスの描くこの独裁者はやけに情けなくもあり、下手な偽善者よりもよほど人間臭い。
そしてそれらが時間空間を自在に飛び越え、ダイナミックな文章で語られていく。
読んでいる私たちも否応なしに引きずり込まれてしまう。
ガルシア=マルケスはノーベル賞作家であるが、その作品はエンターテイメント性も備えた見事な芸術品である。
ラテンアメリカの壮大な神話的世界を思う存分味わってください。
十二の遍歴の物語 (新潮・現代世界の文学)
12作全部をとても字数制限内に語れないので、1作だけレビューします。川端康成の短編に着想を得て、マルケスはこの本に収録されている短編「眠れる美女の飛行」(1982年)と長編「わが悲しき娼婦たちの思い出」(2004年・作者77歳!)を書き上げました。夜間フライトでたまたま乗り合わせた航空会社勤務の「眠れる美女」をじっと見つめ愛する、という内容の前者に対し、後者は幼い娼婦の寝姿に恋した老人の恋愛劇に話が深化しています。着想が熟するのをじっくり待つのがマルケス本人が語る創作スタイルですが、この短編自体が書き上げまでにかなりの年月をかけており、さらに長編にするのに20年かかっています。
徹底して愛の不在を語り、描く恋愛の多くが娼館を舞台にしているという恋愛悲観主義者のマルケスですが、だからこそ「眠れる美女への片思い」というモチーフを偏愛するロマンチストでもあるという逆接が面白いですね。この2作を読み比べれば、マルケスの創作スタイルを凝縮して味わえると思います。
コレラの時代の愛 [DVD]
こ、こんな男があなたの恋人だったらどうする?
「君のために純潔を守り通した」といいながら、
622人の女と「習慣」で寝て日記までつけてるの。
Aちゃんと寝た、Bちゃんと寝たと、律義に記録を
残し、他の女と寝るのは「僕の習慣だから」と・・。
フロレンティーノが、次々に女性と関係を持つので、
彼の考える純潔は「男の詭弁」としか思えなかった。
コレラの時代の純愛というよりストーカーみたいで、
主人公のハビエル・バルデムがちょっとキモかった。
でも、「ママ・グランテの葬儀」の表紙みたいな
色調や鳥の絵が出てくるのはステキと思いました。
私には、良く分からない純愛ものだった・・。
One Hundred Years of Solitude
20世紀最大の作家とクリントン前大統領が賞賛していたので、すぐに探して読んで見ましたが、何故彼がノーベル賞受賞するまで評価されているか分かりません。ハリー・ポッターみたいな感じもありますが、ちょっと時代遅れの文体の様な気もします。21世紀はもっとテンポが速く、より現実的になってしまっていて、この本をじっくり読んで感動する余裕がないのではないでしょうか。彼の良さを解説してくださる方がいたら、光栄です。
For Love Or Country: Arturo Sandoval Story [DVD] [Import]
キューバの伝説のトランペット奏者Arturo Sandoval(アルトゥーロ・サンドバル)の“自伝”。
基本的に反革命の映画。 特に80年代以降CUBAを離れていった人々の心境の変化をよく描き出していました。 <アルトゥーロの奥さん・マリア・エレーラ>を通じて我々はその気持ちを汲み取ることができます。「私が外国人を招いたり、主人が好きな音楽を演奏しただけで壊れるような革命ですか? その程度ならやめたら?」というセリフが印象に残ります。
実際のアルトゥーロ・サンドバルはCUBAでカストロ兄弟の次に高級車を乗り回して、豪奢な生活をしていたそうです。 したがって、アンディ・ガルシア演じるところの人物とはかなり違うのだということを実際にアルトゥーロを知る人物から聞きました。 それがトランペット奏者としての彼の価値を貶めるものではありませんが。 どうしても映画には脚色が付き物ですし、ドラマティックにしないと観客を呼べませんからね。 実在の人物と切り離して見なければならないけれども、非常に興味深い作品です。