Geese & The Ghost
元GENESISのアンソニー・フィリップスの1st。1977作
この童話的な美しいジャケットのイメージ通りの、じつにたおやかなアルバムだ。
この作品を端的に表現するなら、繊細、幻想的、英国貴族的優雅さ、ということになるだろう。
自身のつまびくやわらかなアコースティックギターの音色、ピアノ、シンセなどに加え
フルート、チェロ、オーポエ等をゲストに迎え、英国中世風のクラシカルなイメージを
うっとりするくらいの繊細なサウンドで表現している。マイク・ラザフォードやフィル・コリンズが
参加していることもあり、曲によっては初期GENESISの幻想美をそのまま抽出したようなイメージ。
流行やコマーシャリズムとは無縁の、ゆるやかな時間に生きる繊細な感性の結晶がここにある。
2008年のエクスパンデッドエディションには、ボーナスDiscにデモ音源等を多数収録。
ヴァレンティノ [DVD]
ハリウッドで活躍したのはわずか5年。ドラマティックにしてスキャンダラスな「ルドルフ・ヴァレンティノ」。
演じるは、20世紀を代表するバレエダンサー「ルドルフ・ヌレエフ」。こちらもドラマティックかつスキャンダラスな人生。二人のルドルフ、どちらも愛称『ルディ』。
監督は先日84年の生涯を閉じたケン・ラッセル。「チャイコフスキー」「マーラー」「リスト」など芸術家の生涯を独特な切り口と、イマジネーション溢れる(過激にして美しい)映像表現で描く。
ラッセル監督がいったい二人の「ルディ」をどう捌いてしまったのか。鑑賞以前におかしな心配をしてしまう。
どちらの「ルデイ」にも思い入れがなく、ラッセルファンという方が一番心穏やかに、監督に身をゆだねることができるのでは?
31歳の若さで他界したヴァレンティノ。葬儀には何万人ものファンが押し寄せた。
映画はモノクロの押し寄せるファンの波から始まる。棺に入ったヴァレンティノ(ヌレエフ)の顔がアップで写る。カメラが引くと同時にカラーに変わり、ヴァレンティノのハデな死化粧があらわになる(笑)。尋常ならぬ華美な葬儀場。 真っ赤な花で作られた大きな「ハート」!(後のシーンで登場)
棺を囲んで「このスターの死をどう有効に宣伝に使うか」の相談。外からはファンがなだれ込む。破れた壁を棺のふたで乱暴に修理。もう無茶苦茶!!。
死を悼む女性が登場。そして過去のシーンへ。邸宅の中、タンゴを踊る二人の『男性』。ヴァレンティノとニジンスキーという設定。バレエダンサーのタンゴは見応えがある。美しいー!!タンゴが一段落すると、「ニジンスキーさん」が普通のバレエを少し披露。すごく嬉しそうに眺めるヴァレンティノ(ヌレエフ)。二人の関係を暗示しているのはいうまでもない。 後半、「ピンクのパフ」が乱れ飛ぶシーンがあるが、これも男色を意味するのだという。
葬儀。過去。過去のロケとスタジオ撮影現場。交錯しながら、ヴァレンティノの出演作品に、その時々の女性、その他事件を絡ませドラマティックにしてスキャンダラスな短い人生をたどる。ぶっとんだコミカルな雰囲気濃厚。バレエ『牧神の午後』のポーズをとりながらの写真撮影(笑)。重婚罪での獄中ヴァレンティノに迫り来る恐怖(コミカル)。矢継ぎ早に場面が変わりイメージの洪水。全編豪華絢爛装飾過多。随所で使われるタンゴの曲と踊りが官能的なムードを醸し出す。(ヌレエフのダンスはすごく得した気分!)
徐々にハリウッドに食いつぶされていくヴァレンティノの悲哀を見せる。イタリア出身、オレンジ農園が夢だったのに...。
ヴァレンティノの「ファンを虜にした性的魅力」と「ナイーヴさ 」。ヌレエフは特に後者を上手く演じていたと思う(魅力はある程度自然に出る)。
ついにヴァレンティノは無謀な戦いに挑む。相手はハリウッドのシステム、マスコミ、ファン(全て今日持ち上げたかと思えば翌日には手のひらを返すような存在)。その象徴としてのボクシングの試合シーンは大勢の観客、ダンスとパワフルな映像で圧巻。
前半なんとなく戸惑い気味だったヌレエフも、中盤過ぎからはもう腹をくくって大熱演。二人のルディに拍手!(実はとまどったのは私かも?ストーリー順に撮るわけでもないのだろうから。)
そしてヴァレンティノは力つきる。(実際は胃の病気で亡くなったとか。)
オープニングのハデ葬儀とは打って変わって静謐なエンディング。
「天国に今夜星がひとつ新たに現れる〜♪」オープニングとエンディングに流れるとても美しく穏やかな曲。ハリウッドのスターとバレエ界のスター。二人のルディ。幾多の重圧を受けながら駆け抜けた人生。二人のスターは空の星になった...。ケン・ラッセル監督も星になった...。みんないつかは星になる。好きなようにかけぬけよう!どうせいつかは星になる〜♪
<おまけのトリビア>
長文、駄文レビュー、失礼しました!(自分でもなんでこんな恐ろしく長文なレビュー書いたのかわかりません...。)
長文ついでにおまけのトリビアです!
ケン・ラッセルは実は『ニジンスキー』の映画をヌレエフで撮りたかったのです。ところがさすがのヌレエフも伝説のバレエ・ダンサー、ニジンスキーの役には恐れをなし、依頼を断りました。その「罰!?」で、ラッセルはヌレエフをヴァレンティノにしてしまったのだそうです。(故・淀川長治氏がある雑誌にそうお書きです。)でも、ニジンスキーをあきらめきれなかったラッセルはワンシーン、ニジンスキー(「アンソニー・ダウエル」・英・ロイヤルバレエ)を登場させました。二人の男性ダンサーがタンゴを踊る美しいシーンです...。
ギース・アンド・ザ・ゴースト
77年発表の1st。この人はジェネシスのオリジナル・メンバーの一人であり、ジェネシスの2nd発表後に脱退した。ジェネシスの長い歴史において彼の存在は比較的地味だが、彼のこの作品を聞くと彼がジャネシスに与えた影響がどれほど強かったかと言うことが良く分かる。まあ影響を与えたというよりも、おそらく彼がジェネシスという型を作り上げたと考えるのが妥当なのだろうと思う。この作品では初期ジェネシスそのもののファンタジックな作風で完結されており、彼の作品の中でも完成度がすこぶる高いものだ。ハケットも同じようにジェネシスそのものの型をソロで再現して見せたが、アンソニーの方は更に繊細で静的要素が強くクラシック色が強い。
美しく幻想的なイントロダクションの1.の後、クラシック・ギターやリュートなどを駆使したガラス細工のようなサウンドに、暖かみのあるフィル・コリンズのヴォーカルが乗った2.への流れの素晴らしいこと。3.以降のヘンリー8世をモチーフにした組曲はまさに宮廷音楽といった端正な響きを持っている。
サウンドの基本はアンソニーの12弦を中心としたアコースティック・ギター。マイク・ラザフォードが全面参加し、フィルも2曲でヴォーカルを披露。ジョン・ハケット(fl)ら木管奏者、弦楽奏者が参加して美しい演奏を聞かせている。アンソニーはこの作品を作るために1からクラシック・ギターを学び直したそうだ。何と言ってもジェネシス脱退後7年後の処女作なのである。
何にしてもこの美しいジャケットがこの作品を見事に表している。ここまで中世の英国をイメージさせる作品は珍しいが、それを差し引いても楽曲アレンジ共に素晴らしく、どう考えても英国ロックの秘宝の一つだと思う。
ファインマン計算機科学
計算機科学の本というよりは物性専門家から見た計算機という方が正しいです。
チューリングマシンなどいわゆる理論計算機科学の基礎の解説よりもコンデンサーと回路、情報とエントロピーとエネルギーの関係、など物理方面から見た機械の解説に多くのページを使っています。
ですので理論計算機科学を知ろうとして読むと面食らうところはあります。
物性ではなく本格的な計算機科学を学びたいならMichael Sipserの「計算理論の基礎」という本をお薦めします。