ピョンヤンの夏休み――わたしが見た「北朝鮮」
全編が、柳美里(ユウ・ミリ)氏のセンチメンタリズムに覆われた旅行記である。
そのセンチメンタリズムはある種の希望的観測に支配されている。
柳美里氏(43歳)はかつて所属した東京キッドブラザースの座長、東由多加氏の思い出を胸に抱きながら、
子供と、現在の同居人である26歳の若者と共に”祖国”北朝鮮を訪問する。
そしてピョンヤンの市民を見て、こう確信する。
「この普通の暮らしをしている市民の笑顔が『サクラ』であるはずがない」と。
しかし私は思う。柳美里氏は『サクラ』のあり方を履き違えている。
『サクラ』とはこうだ。
香具師(テキ屋)が、啖呵売をする。そこにる『サクラ』が、いいタイミングで「安い!買った」と叫ぶ。
周りの客はそれにつられて我も我もと香具師の売りつける安物を買う。仕事が終わると香具師は
『サクラ』に何がしかの分け前を渡す。それは7:3だったり、8:2だったり、割前は『サクラ』のほうが
当然少ない。それでも『サクラ』は香具師に礼を言う。笑顔で。この笑顔は、本当である。
『サクラ』はついさっき、客の役を演じたわけだが、今は演じているのではない。
しかもそれからも演じる必要はない。演じなけえばならないのは翌日また始まる啖呵売の時だけだ。
いわば1;9の1だけが『サクラ』なのだ。
平壌の市民も、もちろん普段は9の部分の暮らしをしている。しかし、訪朝した私が声をかけたとき、
党の集会に出たとき、総書記が亡くなったとき、1の部分を演じることになる。
それは即ち『サクラ』だということなのではないか。
しかもその『サクラ』は、強制されてやる『サクラ』であり、洗脳されてやる『サクラ』なのである。
香具師の『サクラ』のように報酬になることはない。
やらないと大きなマイナスがあるだけの『サクラ』である。
2011年12月、金正日国防委員長がなくなり悲しむ平壌市民の映像が日本にも届いた。
その中にあった「金正日総書記が現地指導に訪れた際、乗ったエスカレーターのベルトにすがりついて
『金同志をもう一度お乗せしたかった』と号泣する百貨店の店員たち」は、『サクラ』ではないのか。
これは、柳美里氏のいうように「感情的偏見」なのか。
柳美里氏は「金正日チャングンニム」のニムをことさら「金正日将軍様」のように、様と訳すのは明らかにおかしいと指摘する
その理由として「運転手ニム」と運転手にもニムをつけるからだと言う。それはその通りだが、これは朝鮮を理解しようとした人なら、
誰でも知っている話である。
柳美里氏は本書の中でこう言う。
「(前略)知識を活字からしか得ないのは危険なことだと思う。(中略)自分の足で歩き、自分の目で見て、
自分の耳で聴き、自分の頭で思考する。思考の結果、誤った意見に到達したとしても、他人が書いた知識を
頭の中に集めて正しげな意見を述べるよりは、百倍マシだと思う」
たたみかけてくる文章なので、つい「うん、そうだ」とうなづいてしまいそうになるが、この文は明らかにおかしい。
「誤った意見」は誤っているからである。
私は、「他人が書いた知識を頭の中に集めて」平壌市民のあるイメージを抱き、「自分の足で歩き、自分の目で見て、
自分の耳で聴き、自分の頭で思考する」為に平壌を訪れ、「思考の結果」平壌市民に悲しい『サクラ』を見たのである
家族シネマ [DVD]
映画の中で、映画を撮っているという構成だが、その映画の撮り方も半ドキュメンタリー的なため、
虚虚実実の判断がなかなかややこしい。そして、それこそがこの映画の狙いでありトリックだと思う。
つまり、家族という集合体が本来、虚構に満ちているのではないかということを、見ている我々は感じざるを得ない。
諦めにも近いニヒルでシニカルな笑いが、この映画を見ている者を襲うことだろう。
なんだかんだで家族再生をテーマにする映画が多い中、ここまで現実主義に徹した映画という意味でとても評価できると思う。
お父さんは、普段の時の喋りまで、やたら畏まった感じなのは、わざとなのか。
どこからがリアルで、どこからがパフォーマンスであるのか、
ここのラインが全く判断がつかないため、ますます父を魅力的にしていた。
あそこまで浮いていて、逆に味になるっていうのも、この映画のテーマが家族集団の混沌を描いているからだと思う。どこまでも出口はない。
命 [DVD]
単なる感動モノだと思ってみてはいけません。柳美里という一人の女性のサクセスストーリーとしてみてください。そうすることで素直に命の壮絶さについて考えさせられ、素直に泣ける作品だと思います。ノンフィクションですからね。そして江角さんと豊川さんの演技がイイ!(・∀・)
BREATH
中高生の頃よく聴いていた渡辺美里さん。2作目のアルバムです。Born to skip、Richじゃなくても、Here comes the sun〜Beatlesに会えなかった、Pajama Timeなんかが好きです。中期や後期と比べてもキラキラした曲が多く、美里さんの若い歌声が堪能できます。作家人が豪華、そしてそれを歌いこなす実力は今聴いてもまぶしい。昔カセットを何度も聴いたのを思い出し、当時の思い出が蘇ります。
オンエア 上 (講談社文庫)
引き込まれて一気に読みました。
テレビの向こうの女子アナ・・・美貌と才能があって、あらゆる方向から注目されて、女優やアイドルに引けを取らないほどの人気や知名度のあるひとも珍しくなくて・・・でも、決して楽に軽やかには片付かない「生きる」という仕事をしている人であることは、私たちとも何ら変わりないのだと、今さらのように実感しました。
絶望して顔を伏せてしゃがみ込んでしまうことはたやすいけれど、そこから、今という時から、もう一度生き直そうとする主人公たちの姿は、凛々しく力強くひたむきで、人生って捨てたもんじゃない! と思わせてくれます。
柳美里さんの著作はすべて読んでいますが、この作品は確実に、私の中のベスト3に入ります!!!