西遊記〈1〉 (岩波文庫)
抄訳で見所だけスピーディに見ていくのもいいけれど、やはり一度は読んでみたい完訳版。なによりこの作品は、訳がすばらしい。中野氏のボキャブラリーの豊富さにまずびっくり。中国ものにありがちなかたさもなく、詩もスラスラとこなれた日本語で読むことができます。
全10巻というとかなり長編ですが、三蔵のヘタレっぷりにつきあっているうちに、あっという間に天竺です(笑)。このお坊さん、馬がないのも嫌だけど、一人も嫌というわがままぶりで、悟空に「んもぅ!この役立たず!」とあきれられ、やれお腹がすいただの恐いだの、ホントにあなた天竺行く気あるんですか?という文句のおおさ。根はもちろん善人ですが、いつもどこか慈悲のかけどころがズレてるし、臆病だけれど、貞操だけは死ぬ気で守るという変な人でもあります。猪八戒は食い気だけは人一倍ですが、ものぐさで不真面目。悟浄は荷物番ばかり。悟空にくらべると、どうにも見せ場が少ない気がするのですが、それでも旅を続けるうちに、だんだんと悟空との呼吸もあってきます。悟空は、短気で喧嘩っぱやいけれど、滅法強く、おまけに頭もいい。悟空の活躍には、胸のすく思いがするでしょう。ぜひ一度読んでみてください。実は西遊記はエピソードの数珠つなぎ作品ではなく、緻密に計算されつくした壮大な世界であったとは、完訳を読んではじめてわかることなのです。
映画「西遊記」ORIGINAL SOUNDTRACK
実際映画館にも足を運び西遊記を観ましたが、その際「西風の記憶」(中国語で作詞された冒頭の挿入歌)を聴き、身体の芯までじーんとしたのを思い出しました。日本人の耳に馴染みやすい中国の楽器である二胡や古箏を使った音楽で癒されました。1978年に放映されていた西遊記(堺正章主演)のサントラはゴダイゴが音楽を担当されており、この影響もありチャイナな響きの音楽で幼少の頃から大好きですが、今回のサントラもまた新しい西遊記の世界を作り上げられていてとても良かったです。ドラマ西遊記のサントラもかつて購入しましたが、並行して聴くと音のバランスや構成されている楽器の違いがわかったりしてさらに楽しめます。