マーターズ [Blu-ray]
観た方なら解かると思いますがフレンチ・ホラーの中でも特に邪悪な危険物でございます。
それがまさか国内でブルーレイ化されるとは正に☆奇跡☆
この☆奇跡☆が起こったのもホラーを越えた傑作だからこそですね。
興味本意でこの☆奇跡☆を観てしまうと三日はトラウマになるのでご注意を。
バタリアンズの代わりにブックレットとか付けてたら(涙)
3つのジムノペディ~サティ・ピアノ作品集
サティを「ヒーリング音楽」と評価する人が多いですが、聴き手に優しい「ヒーリング音楽」「イージーリスニング」「ラウンジ」の類ではありません。好き嫌いが分かれるのも無理はありません。私は「音楽のアールデコ」だと思います。直線と幾何学模様で構成されるアールデコは、クールで無機質なのに、ユーモアと叙情性が有るところが魅力ですが、サティにもそれを感じます。普通のクラシックは感傷的過ぎるし、現代音楽はあまりにも理性的・構築的で叙情性が無さ過ぎる。私にとってサティはとてもバランスが良いです。
パスカル・ロジェの演奏は、技術は何も文句の付け様が無く、詩情豊かに弾いています。
サティが好きな人は必聴。サティは好きじゃなくても、パスカル・ロジェの演奏を聴くだけでも価値が有ります。
アンビエントやエレクトロニカ、ジャズのファンにもお薦めです。
ドビュッシー:ピアノ曲集
ドビュッシーの曲を演奏しているピアニストは山ほどいます。情感たっぷりな解釈からあっさりした解釈まで色々ありますが、このCDの演奏は「淡白寄りの中庸」な解釈だと思います。人の感性は色々ですので、教科書通りでつまらない演奏と評する人もいるかもしれませんが、個人的にはドビュッシーはこれくらいの濃さが聴きやすいです。自分でドビュッシーの曲を弾く時は、無意識のうちにド演歌風にネットリとやりすぎてしまうので、その矯正のためにもこのCDをお手本としています。
トールマン [Blu-ray]
本作の監督(脚本)のパスカル・ロジェと言えばフレンチホラーの珍品「マーターズ」で一躍脚光を浴びたお方。
その気鋭のフィルムメイカーの新作が到着
主演はジェシカ・ビールということでアメリカ映画にも思えますが実際はアメリカ・カナダ・フランスの合作という事になってます。
舞台はアメリカ、ワシントン州の片田舎コールド・ロック。
かつては鉱業で栄えた町も、鉱山の閉鎖と景気の低迷ですっかり寂れております。
住民たちの多くは貧困状態にあって人間関係やモラルの低下が見られます。
そんな町で子供たちの失踪事件が相次ぎ、その裏にTall Manという謎めいた「人さらい」の存在がまことしやかに囁かれております。
町のクリニックで働く看護師ジュリア(ジェシカ・ビール)はある夜、彼女の自宅に押し入りまだ幼い子供を連れ去った謎の人物を決死の覚悟で追跡するのだが…。
…困った。
これは解説しにくい作品です。
したがってこれ以上のストーリーについては言及しない方がフェアでしょうね。
この監督さんの前作「マーターズ」は実に変な映画で容赦のない残虐描写の連続と猟奇的なプロットで観客を鷲掴みにしながら、クライマックスでトンでもない方向に驀進する様にあっけにとられた覚えがあります。
結果的に非常に好き嫌いが分かれる作品となった訳ですが、前半のシリアスなハードサスペンス&サイコスリラー部分の出来には確かなものを感じさせました。
本作「Tall Man」でもその手腕は生かされていて中盤まで実に手堅くサスペンスを盛り上げております。
舞台となるコールド・ロックの町の雰囲気が中々に良くって深い森に囲まれた寂れ行く鉱山町の閉塞状況が良く伝わってまいります。
しかし前作がそうであったように、本作も見かけどおりの児童誘拐犯を巡る猟奇サスペンスではありません。
中盤以降、物語は大きくその様相を変えて行きます。
その展開には意外性もあってインパクトがあるのですが同時にここで賛否が大きく分かれることになるのではないかと思います。
ストーリーに触れずに本作ご関心を寄せられた方にアドバイスするなら:
本作に「マーターズ」のような「どきついホラー描写」を期待するとガッカリする可能性が高くなるのでは―
逆に「ミステリー映画」として捉えれば意外としっくりと楽しめる作品となるかもしれません―
ホラーとミステリは元来親和性の高いジャンルなわけで多くのホラーにはミステリ的要因(例えば犯人の正体が謎であるとか)が含まれております。
同様にミステリにも多かれ少なかれホラー的な描写が付き物(殺人シーンとか)な訳です。
しかし物語にどう落とし前をつけるのかとういう点においてはこれら2つのジャンルを混合して扱うのは原則としてはご法度だと思います。
基本的にホラーは許容度が高く、殺人鬼であろうと亡霊であろうとなんでもありなわけで論理は無視できますが、ミステリは基本的に全てが理詰めで説明できなければならない筈。
その意味で本作は明らかにホラーではなくミステリーなんですよね(だから単純明快なホラーを期待しているとガッカリする可能性が高くなります)。
ホラーのイメージはマーケティングの観点からもアピールし易いから便利なんでしょうが、ミステリとしての面も打ち出しておかないと本作にとってフェアじゃない気がいたします。
ラヴェル:ピアノ曲全集
ラベルのピアノ作品の全集としては、ペルルミュテールの録音がほぼ同じ時期に成されていて評価も高いと思われますが、ロジェのこの録音もそれに劣らずラベルの精緻な世界を表現していると思いました。録音時期が1973年から1974年なので、音のクリアさが今ひとつです。その分星を一つマイナスしました(だからロジェの責任ではなく、ハードウェア的な問題)。是非本人による再録音化を望みます。