学習するモーツァルト
雨上がりの朝、モーツァルトの初期ソナタを聴く。至福の時である。まず変ホ長調K.282、身体の中を風が吹き抜けるようだ。2曲目からはクリスチャン・バッハとモーツァルトの同調ソナタが交互に披露される。バッハのト長調ソナタはシンプルで美しい。第二楽章の変奏曲が特に好きだ。3曲目は同じト長調のモーツァルトで、第一楽章ではバッハとのテーマの類似性が指摘される。なるほどそうか。第二楽章アンダンテの美しさはこの作曲家の真髄。4曲目、5曲目はニ長調のソナタ比較だが、大曲とも言える「デュルニッツ」ソナタ(完璧な演奏である)の部品がバッハから来ている、という指摘は、研究者でもあるこの演奏家ならではであろう。力を抜いてうっとり聴くのも良し、解説に導かれて「学習」するも良しの価値あるアルバムだ。
ハイドンとモーツァルト
当時のフォルテピアノ(レプリカ)による演奏だそうである。当然音色は現代ピアノと大きく違うが、弦の弾けるような独特の音が直接伝わり、この楽器に合わせた録音のせいでもあるのか、小ぶりのサロンで鑑賞しているような雰囲気につつまれる。当時の楽器は良く言えば楽しく明るいが、悪く言えば平板といった印象があったが、表現の多彩さは現代ピアノに劣らず、低音部などには意外な深淵さが感じられる。なるほどチェンバロから現代ピアノに至る過渡期の楽器であるからだとすれば、それも頷ける。ただ聴くだけでも楽しく美しいアルバムだが、おそらく時代背景も含めた丹念な考察と解釈の成果でもあるのだろう、両作曲家のフォルテピアノに対する取組みの違いが演奏者自身による解説で論じられており、このアルバムの価値をさらに高めている。
青春のモーツァルト
その頃絶頂だった宮廷都市マンハイムに滞在した若き作曲家によるソナタ2曲に、良く知られたイ短調K310、さらに同時代人J.C.バッハの曲が挿まれた選曲は心憎く、演奏も音符の一粒一粒が生き生きとして素晴らしい。この演奏者は音の構成についての考察を非常に大事に演奏に活かそうとしていて、例えば、ある楽章がシンフォニックにどのような構成であって、仮に合奏曲であったらどんな楽器がそれぞれの音を担当するのが相応しいか、といったことを念頭に弾いているらしい。そのせいか、打鍵のタッチや強弱など微妙な味わいが随所に感じられる。このCDには演奏者による簡潔だが適確な解説が付いており、それに導かれて4つのソナタを聴き比べるのも面白い。もっとも演奏者自身が言うようにK.310のアンダンテやJ.C.バッハの作品17-5など、理屈抜きに聴けば心が洗われる美しさである。
作曲家別演奏法 2 モーツァルト
モーツァルトのピアノ作品の、その作られた背景、楽曲分析、演奏のポイントがきめ細かく、そしてわかりやすく書かれた本です。モーツァルトのピアノソナタの楽譜を横に置いて照らし合わせながら読むことで、理解がいっそう深まります。モーツァルトがいっそう好きになり、モーツァルトをたくさん弾きたくなる・・・そんな本でした!
モーツァルトのピアノ音楽研究
ピアノソナタを中心にピアノ音楽を通してモーツァルトの生涯を追うのがメインになっている。
著者は以前にモーツァルトのピアノ作品において重要なのはソナタでなく変奏曲であると主張する本を書いていただけに、ここでソナタが語りの主体になっているのは皮肉な感じであるが、そのソナタの曲分析がとても面白い。
全曲について語られているわけではないが、最新の研究による作曲年代の推定を基にして、従来からあるこれらの曲への見方を変えてくれるものがあると思う。
とりわけ、これまであまり魅力を感じなかった後期のソナタの魅力には初めて目を開かされた思いである。
それに加えて楽器やハイドンとの関係、即興とカデンツァなどの記述もある。これらも演奏者としての著者の経験が生きていてなかなか興味深いものがある。
個人的には非常に得るものが多かった。