多情多恨 (岩波文庫)
妻を亡くした男の嘆きを描いたもので、紅葉は『源氏物語』を読んでこの作の構想を練った。この後「金色夜叉」があるわけだが、これは通俗に堕している。これが紅葉のものとしては最高の作であろう。なんで品切れなんだ。
金色夜叉(通常版)
あまりにも有名過ぎ、かつベタなクライマックスに、笑いを堪える覚悟で購入しましたが、いざ、聴いてみると、笑いどころか、胸締め付けられる心持ちで、終了しました。
諏訪部さんの朗読の力もさる事ながら、文語体の言葉の美しさに魅せらました。
金色夜叉 (新潮文庫)
作り事は嫌いでなるべく小説は読まない主義の私だが、先日熱海の海岸を散歩したのを契機に、恥ずかながら古稀を過ぎて初めて金色夜叉を読む気になった。百年前(1897-1902)の著作だ。考えてみれば、日本の人口は45百万人で、丹那トンネルはまだ出来ていないから東海道は新橋始発で御殿場線経由。貫一お宮の重要な舞台となった熱海は、国府津からの軽便鉄道の終点だった。男尊女卑で既婚女性が単独で男性と会うなどもっての他の時代だ。
小学校は旧かな遣いで学んだ私はさして苦労なく読んだが、「十九にて恋人を棄てにし宮は、...二十あまり五の春を迎へぬ。(25の春を迎えた)」といった美文調の文語は、若い人には一寸辛いかも知れない。しかし連載で読売新聞の購読数を飛躍的に伸ばした虚構の面白さは現代でも素晴らしい。覚悟を決めて掛かれば、百年前の日本社会を味わいつつ日本文学の金字塔を堪能することができよう。
菊池寛が大正9年に発表した「真珠夫人」を東海テレビが、時代を終戦後に改めて昼ドラにしたのが大ヒットになり、2002年の流行語になった。同じことをすれば金色夜叉も大ブレーク間違いない。そういう息も継がせぬ面白い展開だ。