約10年ぶり直木賞を受賞したころ以来、この本を読んだ。 当時の私はこの本の主人公、府美子とほぼ同じような年齢で、自分の恋愛とかけ離れた恋愛に人生を投じた主人公を気の毒に感じた。 10年後も再び読み返したくなるほどとても印象深い作品だったのだが、ハッキリ言って細かいストーリーはほとんど忘れてしまっていた。 強く印象に残っていたのは、軽井沢と浅間山荘事件と呑気な登場人物たちの描写だ。私の幼少期によく訪れた軽井沢は今と違い(浅間山荘事件から5年後位)何となくまだ事件の余韻を残した、避暑地でありながらどことなく暗い影を残した場所だった。簡単にいえば、今と違う成長期の日本だと思う。その印象と照らし合わせながら、この小説を、よりリアルに時代を感じながら読めた。浅間山荘事件を知らない世代にはこの感覚は得難いのでは、とも思う。 今、改めて読み返してみると、当時と同様引き込まれて一気に読めたのだが「読まなきゃよかった」「読んでよかった」という感想。 軽井沢の描写はおいておいて、大人の恋愛をしているような3人が実はとても子供っぽいことに気付いたし、また一生のうち人によってはゼロ回か数回もできない”重い恋愛や愛”とはこのようなもの、という印象も。 正直、現在を表すくだりでの主人公や夫婦の感情面では、時間の流れが止まり過ぎでは?(ちょっと作者の投げやりさを感じた)という若干の疑問も感じた。 この小説の焦点は、作者の時代感のようなもので、とても上手く作られていると思う。その点において、今もなおとても優れた作品だし、作者の勢いを感じる(偉そうで申し訳ありません・・)。
小池真理子怪奇幻想傑作選の第一シリーズ(第二シリーズは最近出た「青い夜の底」)。
ホラーの中にもほのかに純文学のテイストを匂わせている、 そんな作風が好きなひとには非常におすすめ。 特に本作の中で私がお勧めなのは、短編というよりも掌編である「くちづけ」。 ほんの短い物語なのに壮大で読み手の想像力を掻き立ててくる、非常に切ない ラブストーリー。 もうひとつは「蛇口」。 これはホラーも十分に匂わせつつ、ミステリ的なオチになっているので、 ホラーというよりはミステリ嗜好のひとも十分に楽しめる内容になっています。
単に幽霊や怪奇現象が起こるから怖い、というのではなく、 何か心の芯を揺らされるような、自分のアイデンティティが危うくなってくる怖さを持った、 本作は素晴らしい短編集です。 是非一読を。
いつもながらに、一度その世界にはいってしまうと、一気に最後まで読み続けたくなる。
不幸な境遇の恋人たちのラブストーリー、だろうか。
無花果を描き続ける画家の人となりも、大きな位置を占める。
脇役の人物の魅力、わかりやすい表現、物語を引っ張っていく力は、やはりすごいのかな。
ただ、すばらしい読後感といったのはなく、残念。
なんとなくなつかしい気持ちにさせてくれる本です。 欲望、とは不埒な意味ではないんですよね。 衝撃的なラストで、恋愛小説としての完結が美しいです。 恋愛文学賞をとっただけはある本だと思います。
初節句の日を楽しく演出してくれました!かってよかったです。
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