小林亜星さんの才能の凄さを改めて実感しています。
そのドラマ、シーンに合わせた音楽には脱帽されます。
各場面を思い出し、想いにふけっています。
露口茂の思わせ振りな演技が光ります、PARTONEよりいい!
例えばオフィスの洗面所で、鏡に向かって艶やかな黒髪をブラッシングする女性がいます。他にこれといってぱっとしない彼女の自慢は長い髪。なぜかドアが開いたままなので通りかかった人は嫌でもその姿に見惚れます。こんな時、向田さんは、「あの扉は絶対壊れてなんていなかった」と断定します。
阿修羅の如く、阿吽、父の詫び状…、私は向田さんの作品を敬愛してやみませんが、このエッセイ集は向田作品の源泉の一つを教えてくれてとても興味深いです。
言うまでも無く、人の心はいつも清らかではありません。下心も弱さもずるさもあるでしょう。観察して判ってしまうということは、これを見抜いてしまうことである意味残酷です。判ったうえで知らないふりをしている人は多いでしょう。でも向田さんはそれをエッセイ(ノンフィクション?)にしてしまった。題材にされたほとんどの人は一瞬ドキッとしますが好感をもって受け入れることができると思います。でも、冒頭の女性はどう感じたのか、私にはちょっと疑問なところもあります。「それは言わない約束でしょ」という声が聞こえてきそうです。
感覚的に短編と言うよりも中篇を読んでいる気になります。表題作『隣りの女』の他に『幸福』『胡桃の部屋』『下駄』『春が来た』が収録されています。この作品には、言葉や匂いや仕草などそこはかと漂うエロスがあります。他の作品よりも、その感覚的なエロスが色濃く出ているような感じです。性描写じゃないのに、エロいです。雰囲気だけで醸し出されるエロスって、何よりもエロい気がします。まぁ当然ながらそれだけが主体ではなく、ただ一見普通に見える人達が、フトした瞬間に、ある事をきっかけに変わっていく。良い方向だったり、悪い方向だったり。普通と言うことの恐さ。この中で『下駄』だけ男性が主人公ですが、かなりホラーで恐いです。こう言う作品もあるんだなぁと思いました。この本はすべてがオススメです。強いてあげるなら、『隣りの女』と『春が来た』は絶品です。全体に漂う恐さとエロス。そう言えば本のカバーもちょっと恐いです。夏に、とは言いませんが、これは是非手に取ってもらいたい一冊です。
この一冊、充実は並々ならぬ。手料理の写真の数々、添えられている向田さんの文章、ご家族・知人の談話の数々。構成、ライターさん達の文章も良い。
作り手の皆が向田邦子さんへの愛着と尊敬を共有している。1ページ目から、最後ページまで途切れることなく、それが伝わってくる。向田邦子さんを尊敬し、愛している者にとって、喜びの一冊。
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