第一部ではひたすら日本列島の運命を追っかけていくことがテーマであり、その緊張と不安感は今でも現実生活に残っている。第二部の本書では、日本人の行動を追っかけることで地球の未来をシミュレートする事に成功していると思う。クラークが地球外の脅威を用いて地上を統一したとすれば、本作品は海底に没した国の生き残りが地球内部の脅威に対して地上を統一するという意義の深い作品だと思う。センセーショナルだった第一部に比べて、あまり読まれていないのが残念。これも国民の成熟度の低さ故か・・・。 読んでいるときは地球全体に散らばる日本人のエピソードと政治的な駆け引きに、正直言ってSFらしさは感じられなかった。海底遺跡となった日本の典型的な風景に見入る慰霊祭のシーンをはじめとして、国土回復に向けてのナショナリズムに固執するところには、現実的だと思えるだけに作品としては違和感を感じた。中国やアメリカの動向もあまりにもリアルなので辟易した。 しかし主人公たちの考え方が転換していく過程で、認識は大きく変わった。すごく広い視野に立たざるを得なくなったのだ。だから展望を見いだそうとする姿勢で終わる点はすごく良かった。さらに言えば、第一部の主人公たちが、安易に邂逅するメロドラマにならなかったことも嬉しかった。惜しむらくはこのスケールに合う政治家を日本では見かけたことがないことだが、それを望むのが間違いか・・・。 プロジェクト体制で創作されたという本書のメイキング本も読みたい気持ちだ。
「異変」が起こるまでの日本国、日本人・・・それが日本沈没 (上巻) (下巻)だった。
あれから30年余り。
なんとしても異変以後の日本人を書きたかった筆者、小松左京氏。谷甲州氏、森下一仁氏のサポートを受けながら「世紀の巨編を完結」。それが日本沈没 第二部〈上〉〈下〉
ストーリーは「異変から25年」の設定から始まる。
内容は更に世界的に広がりを見せ、気がつけば「地球規模」の展開を見せていた。
国土を失った日本人達。・・・私の頭をかすめたのは、今現存している「イスラエル国」「イスラエル人」。何世紀にもわたって生きてきている流浪の民たち。思った通り「さまよえる日本人達」に、大きな影響を及ぼしていた。一つあきらかに異なる点・・それは、神、仏、なんでも拝んでしまう日本人の特性。それが他国との摩擦を小さくしていた一方で、むしろ「勤勉な人種」であることが、他国の民との摩擦になっていたりしている。
国家は何処へ??
「終章・竜の飛翔」・・・・には夢と絶望が同居していた。
日本沈没・全4冊。地球規模の政治や社会に関わりながら進む、大いに読み応えのある作品だった。
本書は’96年の「新田次郎文学賞」受賞作である。本書は宝探しやテロリストとの戦いや、囚われの身からの脱出行や、山中に逃げた敵の追跡行の物語ではない。
純粋に「山登り」そのものを題材として、限界の中で死と向かい合い、山に人生を賭ける男たちの熱い想いを描いた数少ない本格的な「山岳小説」である。
本書は6つの短編のうち5つまでが、類稀なる体力と判断力、そして登攀の技術をもつ加藤武郎を主人公にした連作短編集である。彼は作品を追うごとに伝説のクライマーとなる。活動のフィールドも、日本の山々からヒマラヤへと広がっていく。
著者自身登山家であり、7077メートルのヒマラヤのピークに立った体験があるという。豊富な山岳経験に裏打ちされた雪山のシーンなど細かい書き込みも真に迫っていて臨場感があった。
ワクワク・ドキドキといったストーリー展開の妙やサスペンスといったものは無いが、そこには自分自身や仲間たちに対する様々な試練や葛藤を経て、雪山にかける、静謐でありまた壮絶な男のロマンが溢れていた。
3・11から半年経って発行されたことにすら意味を感じてしまった。いろんな方の論考に触れることができて、日本のSFというものの再考を読むことができる。現場にある悲しみやつらさなどとは距離があると感じてしまうが、その距離感がSFからみた3・11なのかもしれない。「小松左京、最後のメッセージ」と謳われていたが、もっと大きな使命が刻まれていると読むことができると思いました。
日本沈没の第一部を読んだのは中学生の時であった。その巻末に、第一部完とあったので、第二部をずっと心待ちにしていた。でも、第二部は、なぜか小松左京が書いていない。発売直後には手に取る気になれなかった。最近、虚無回廊を読んで、再び小松左京を読みたくなり、その中で、本書も「ついでに」読んでみた。
読まず嫌いはやめよう、と思った。著者は違っていても、日本沈没第二部に違いない。構想は小松左京そのものだろうと思う。3・11後の日本と、少し重ね合わせながら読んだから余計に高い評価になっているのかもしれないが、日本という物理的な国を失ったとき、日本人のアイデンティティーとは何かを考えさせてくれる。もちろん、エンターテイメントとしても十分楽しめる。
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