音道貴子シリーズを順に読んできました。
鎖に星5つをつけました。シチュエーションのすごさにしびれました。
そして、この作品に星6つをあげたいです。捜査のストーリーにしびれました。
鎖が力ずくの迫力だったのに対して、こちらは、計算しつくされた緻密さを感じました。
最後、色々、丸く収まって良かったです、と言いたい所ですが、被害者たちにとっては、取り返しのつかない結果になってしまっているわけで…その重さを感じさせました。音道さんにも滝沢さんにもどうにもならない、増してや、私たち読者には手も足も出せない悲しさを感じました。
音道さんと滝沢さん、2人とも良い人なのに、なぜかうまくいかない関係をもどかしく感じさせながら、最後、事件の解決と共に2人の誤解も解けたように感じさせてくれたことも良かったです。
枝葉の部分の挿話も良かったです。同僚の泥沼のような恋愛。この作品に重みを加えてくれたと感じました。
乃南さんの他の作品も読むのが楽しみです。
女性刑事、音道貴子と、中年刑事、滝沢、共に離婚経験のある、 不器用な二人がコンビを組み事件の捜査を行う。 互いに相手を無視したり、心中で蔑視する描写が面白い。 ヒロインの音道が男性の食事するスピードに遅れまいとして、一言も 話さずに、一心不乱に食事するシーンには、共感できる所がある。 ただ、警察という男社会の中で苦労が有るとはいえ、女性刑事が 自意識過剰気味と思えない事も無い。
後半は何故か一転してオオカミ犬が主役となる。 ただ、オオカミ犬を美化しすぎている感がする。 ラストの犬をバイクで追跡する場面も自己陶酔気味で、作者は このシーンを書きたかっただけではないかと思えてしまう。
犯人の家の周囲に猟友会を張り込ませていなかったのは、片手落ち ではないだろうか。バイクで犬を追跡するにしても、堀を飛び越えるとか、 生垣に潜り込むとかしたら、バイクでは役に立たない。せめてオンロード タイプでは無く、走破性の高いオフロードタイプを用意しておくべきでは ないか。
ミステリーとしてみても、深夜のレストランで男が炎上するという衝撃的な プロローグの割には、終わってみれば、犯人の動機には殺人までする 必要あるのかと言う疑問が残った。無理に物語を盛り上げようとせず、 前半の女性刑事と男性刑事の葛藤をメインとして読ませた方が良かった と思う。
本当に馬鹿で情けないろくでなし夫・父親というのがいるものだ。大正時代の福島は神俣という寒村に、登野原作四郎という家族に気遣い全くなく、野良仕事を嫌い、投資や金の話を聞くと目の色を変えるろくでなし亭主の存在で、一家の人生は急変させられる。この亭主は家を逃げ出し東京で一旗揚げようと目論むが、結局は株に失敗し大借金を作り、金貸しから追われ神俣に逃げ帰る。しかしそこも危険として、福島から北海道に渡る開拓移民団に勝手に応募してしまう。ある厳寒の2月末の深夜に、家族4人(夫の作四郎、妻のつね、長男の直一4歳、妹のとわ2歳)は大八車で郡山まで歩いて夜逃げする。本家、親族郎党には内緒の逃避行となった。ここから大正、昭和の戦前、戦後まで、母「つね」と娘「とわ」の波乱万丈な半生が描かれる。寒さと、飢えと、貧困の知床半島の開墾は生半可なものではない。アイヌを除いては和人が初めて入る地であり、開墾は遅々として進まず、作物は植えても毎年襲来するバッタの大群に全てを喰い尽される。本書を読み始めるに、先ずは日本地図が片手に必要だ。郡山から二本松、福島、秋田、能代、青森、青函連絡船の三等船室は船底の座敷牢そのもの、函館から小樽、札幌、岩見沢、砂川、旭川、池田、野付牛、網走、春を待って知床半島のほぼ中程の宇登呂、その近くの「イワウベツ」が割り当てられた定住開墾地だ。作四郎は現金収入を得る為に宇登呂に出稼ぎ、つねは原野の木とクマザサの伐採で格闘、直一は片道30分以上のイワウベツ川に水汲み、とわは囲炉裏の火の番、そういう生きるか死ぬかの生活の中に様々な展開がある。妻のつねは、「おどっつぁ」に引きずられ故郷を捨てイワウベツに入植したことに、心から恨みの声を上げる。また開拓移民をきっかけに以後は国・政府には一生不信感を募らせた。上巻から下巻へと女2代の壮大なドラマにとことん引き込まれる。「イワウベツ」(イワウ=硫黄、ベツ=川)は「岩宇別」に、後に「岩尾別」とも表記されるようになった。とわの小学校は東朱円尋常小学校所属岩尾別特別教授場で、とわが3年生の時に転校し同所属遠音別特別教授場に通学した。出来れば一度は斜里の知床博物館に行き知床開拓史をなぞりたい気持ちで一杯だ。
傍目から見ると仲の良さそうな人間関係が、実はお互い敵意を抱いてると言う場合がしばしばあります。個人的に、こう言うケースは男より女の方が多いように感じます。また、男の場合は、仕事上のことなどで、やむを得ずと言うのが多いのに比べて、女の場合は、縁を切るのが簡単そうなプライベートな場でも、こう言う関係を続けているように思えます。 この作品のプロローグには、嫌がらせをするためのプレゼントを作る女が登場します。それが誰から誰へのプレゼントなのかを推理するよりも、敵意に近い感情を抱きながらも完全に仲違いしない、女の仲良しグループの内部を覗き見する感覚を楽しむべき作品と思います。
芭子と綾香には前科があり、二人は刑務所で知り合いました。
二人とも贅沢もせず、まじめにひっそりと生きていて、とても罪を犯した人のようには思えない。
だから読者は二人を応援するでしょう。
家族は連絡もよこさないし、なんてかわいそうな二人とすら思ってしまう。
だが、家族とそんな関係になってしまったのには、
どんなに二人が今をしっかり生きていたとしてもぬぐえない理由があるから。
事件を犯し、刑務所に入るということは被害者と加害者だけの問題ではない。
家族を含め、周囲の人々の人生まで狂わせてしまう。
もし犯罪を犯してしまう瞬間に、一瞬でも家族の顔が浮かんだら思いとどまる人はずいぶんといると思うんだけどなぁ。
刑期を終えたからといって、犯した罪がなかったことになるわけではない。
塀の中でどう過ごすかより、刑期を終えて外の生活に戻ってからどう生きていくのか・・・。
本当の意味での償いはそこからの生き方にあるのだ。
二人のこれからを応援したい気持ちになりました。
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