ワーグナー 楽劇《ニーベルングの指環》全曲 [DVD]
クプファーの指環。あのネルソンの「オランダ人」で世に知らしめた鬼才ぶりはこの指環でも遺憾なく発揮されている。アルベリヒとヴァータンを中心に現代社会を揶揄する演出は見ていてとても楽しい。キャストの動きが音楽と綺麗に連動している場面も多く、まるで創作ダンスのように感じることも。「ワルキューレ」第2幕、第3幕や「ジークフリート第3幕」では広大で奥行きを感じさせる舞台が指環の壮大な音楽とうまくマッチしていて見る者を惹きつける。「ジークフリート」第2幕で小鳥をヴォータンが操ってジークフリートを誘導する解釈も見事。「神々の黄昏」の最後のほうで現代の格好をした人たちが突如としてたくさん登場してくるが、その中で子供2名が演じる一連の行動には感動するので、ぜひ期待してほしい。この場面にクプファーのメッセージが凝縮されていると思う。キャストではローゲとミーメ役のクラークが特に素晴らしい。彼ならではの俊敏な動きと多彩な表情でただの役者としても驚異的な演技力を持っていることをここでも証明している。ジークフリート役のイェルザレムはシェンク&メトの頃と比べると幾分体重が増加しており、ファフナーとの対決の場面でも動きにややドタドタ感があり、行動に若さが感じられず残念。ブリュンヒルデ役のエヴァンスの歌唱力にはやや不満が残る。自己犠牲の場面も迫力不足。 指揮はバレンボイム。彼の名前を聞くとすぐフルヴェンの物真似だとあざ笑う人も少なくない。確かにそれも的確な批判かもしれないが、少なくともこの指環ではそういう批判もどこかへ消えてしまいそうなくらいケレン味を多分に含んで終始メリハリがあり、躍動感と緊迫感に満ち溢れ、オケと歌手を立派に統率していると思う。合唱団もバイロイトなので安心。神々第2幕の家臣たちの合唱は録音のよさも加わって物凄い迫力である。 歌手、演出、演奏、画質、音質など総合的にみて映像作品として大変お奨めできる一品である。
ワーグナーと「指環」四部作 (文庫クセジュ)
「指輪」の成立事情、時代背景、ライトモティーフ、作曲技法など、小さな本の中でよくここまで思うほどに様々な視点から解説してある。「指輪」を受けて生まれた様々なパロディー作品や、ニーチェなどの同時代人の反応、はては物議を醸したシェロー演出にまでふれられているてんこ盛りな一冊。「指輪」の世界にマニアックにはまってみたい人にはお薦めの一冊。
カール・ベーム ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1975年日本公演 [DVD]
伝説の名演であるブラームス一番もさることながら、特典映像のリハーサルでのベーム翁(当時八十歳!)と、デビューから五十年を経てなお熱く音楽界を語るベーム夫妻のインタビューがすばらしい。蝶々婦人でのミュンヘン歌劇場のテストやボェームでのソプラノの奥様への伴奏の時のエピソードなど、今改めて知っておくべき若き日のベームがそこにいます。1975年の雰囲気がベームが愛した日本と重なります。日本にとっても忘れてはならない恩人です。すばらしい遺産です。
ワーグナー:楽劇《神々の黄昏》 [DVD]
ものすごい演出である。
古代の英雄のコスチュームでグンターの館に乗り込んだジークフリートは、そこの住人たちと同じネクタイ姿に着替えさせられ、以降、それで通す。からめとられたその姿が哀れである。
視覚的に先鋭な対照は、古代の戦士のいでたちのワルトラウテの説得を、百姓のおかみさんのようなブリュンヒルデが拒絶する場面でも効果を上げる。
現代の服装を取り入れた演出だが、最近横行する、音楽さえ作曲家の遺したスコアに則っていれば舞台上で何をやろうが勝手、と言わんばかりにテクストを音楽の添え物扱いした安易な読み替えではない。
意匠こそ現代風だが、演出家コンヴィチュニーはむしろ、テクストの本来の意味に迫ろうとする。
意表をつく終幕が圧巻で、観客を安全圏に置かない。細かい説明はあえて避けるが、舞台に独り残ったブリュンヒルデは、客席に向かって「ブリュンヒルデの自己犠牲」を歌い上げ、問いかける。あなたにとって指環とは何ですか?と。
歌詞はそこで、読み替えられるのでなく、本来の意味をつかみ出される。
ツァグロゼク指揮のシュツットガルト州立管弦楽団は明瞭な演奏で、ワーグナー後期作品の中では比較的抹香くささが薄く華やかな響きの本作には良く合っている。
現代的演出に食傷気味の方にも、ぜひお勧めしたい。面白さ、興味深さではなく、真っ当な感動を得られると思うから。
魅惑のオペラ 26 ワーグナー:タンホイザー (小学館DVD BOOK)
中世の伝説に元ずく物語で、ヴェーヌスの愛欲におぼれた騎士タンホイザーの魂の救済の物語です。
1989年のジュゼッペ・シノーポリの指揮でバイロイト祝祭劇場で演じられたものです。タンホイザーにリチャード・ヴァーサル、エリザベートにチェリル・ステューダー、ヴォルフラムにヴォルフガング・ブレンデル、ヘルマンにハンス・ゾーティンという実力派が演じています。ワーグナーの孫であるヴォルフガング・ワーグナーの演出でバトロイトでの演出様式を忠実にこなしています。
1845年にドレスデンで初演された「ドレスデン版」を使用しており、ワーグナーらしい楽曲とアリアが期待を裏切らずに演奏されます。
DVD&Bookの特徴で、詳しい解説が本書に書かれていますので鑑賞には最適なものです。