1900年 Blu-ray (2枚組)
「1900年」、意味深長なタイトルである。19世紀の最後の年から20世紀の半ば、ふたつの世紀を跨いだ激動の時代を描いた今作は、ベルトルッチが好むか好まざるかを措いて、彼が心底信じた「社会主義」について苦渋と共に考えざるを得ないタイトルだと思う。
20世紀とは近代政治史にとってどんな世紀だったのか、なんて小難しい理屈から始めるのは心苦しいが、社会主義と言うものが、ふたつの大きな世界大戦と戦後の混沌を挟んで、帝国主義列強諸国の悪弊や弱体化を受けて、高揚感と共にその思想や運動が隆盛した時代、そして、大いなる自己矛盾と恐怖と共に崩壊終焉していった世紀と位置付ける事が出来るんじゃないか。
1945年、ムッソリーニ政権が倒れイタリアが解放された日、映画のラストから遡って幕を開ける今作は、1900年に北イタリアのポー河流域のある地主領で、同じ日同じ場所で生を受けながら、ひとりは大地主の跡取りとして、もうひとりは小作人頭の息子として誕生したふたりの友情と階級的確執を主軸に、当時の政治状況を縮図化して、20世紀のイタリア近代史を照射する試みがなされている。
ランカスターを地主、ヘイドンを農民、デニ―ロをリベラル、ドパルデューをコミュニスト、サザーランドをファシストの代表として割り当て、類型的図式主義、善悪二元論の物差しの中、ロマンチシズムとデカタンスのスパイスをたっぷり効かせながらのほとばしるような葛藤のドラマ。
圧倒的映像美を以て豊饒な色彩感覚を駆使し、絵画の如きイタリアの田園風景と四季を描く絢爛豪華な映像絵巻。
正に、愛と情念の水流が累々と流れる悠々たる通俗的大河ロマンとして5時間20分、だれる部分なく映像世界に釘付けにさせてしまうベルトルッチの力技は凄い。
ヨーロッパの芸術映画を5時間超も見せられるのかと怖気づかれる方も、騙されたと思って是非御覧頂きたいと思う。
ベルトルッチ、ストラーロ、モリコーネ。才気ある一流芸術家たちの優れた仕事ぶりが目を瞠るが、俳優たちの演技の素晴らしさも特筆ものだ。
いちいち名を挙げるのは省略するが、中でも、大地主に一歩も引かず対等に物言いをした気骨ある小作人頭のスターリング・ヘイドンの重厚な存在感と、常軌を逸したぎらつかせた目で農民たちを虐殺していく黒シャツ姿のファシストのドナルド・サザーランドの残忍な悪役ぶり。
かって赤狩り時代に密告者として仲間を売った悔悟の過去を持つヘイドンと、思想家アントニオ・グラムシを支持し、ジェーン・フォンダと共にベトナム反戦運動を行っていたサザーランド。
それぞれに今作への強い思いを抱きながらの役柄へのアプローチだったと思うが、今も脳裏に焼き付く名演であった。
(蛇足ながら、主要キャストで最も目立たないのが、意外にもロバート・デニ―ロ。それは、彼の役柄がひ弱なインテリで抑えた演技をしなくてはいけなかったからだと推測するが、性格演技はお手の物であった彼からすると物足りないと思ったのか、同時期撮影の「タクシー・ドライバー」ではその本領を遺憾なく発揮していた。)
ところで、今作が、コミュニストであったベルトルッチにとってイタリア共産党に捧げられた作品である事はよく知られている。
ベルトルッチは今作の事を、
〜“これは田舎の、そして農民についての映画だ。大地に生まれ、歩き、生活する事についての映画だ。私はメロドラマの作劇を取り入れ、大衆的な映画を作る事にした”
と語っている。
だからこそ、自然をより意識出来るように物語を4部構成とし、それぞれを20世紀初頭から第一次大戦まで続く主人公ふたりの少年時代である夏、社会不安が増長し、ファシズムが台頭、戦争が勃発する秋、冬の時代を経て、ラストの農民解放を迎える春と、四季のシンボリックなイメージに重ねていったのだ。
ラスト、戦争が終わり、解放の時が来た農民たちにとってはユートピア的な1日。
画面一杯にひるがえる赤旗の鮮やかさ。
ロマンチシズムとマルキシズム。
これは社会主義の勝利であり、ベルトルッチの臆面もないシンパシ―に他ならないのだが、資本主義の処方箋として登場した社会主義が、実はとんでもない副作用があった事が見えてしまった今日では、何とも辛く重いラストだ。
ランメルモールのルチア*歌劇 [DVD]
サザーランドの演技が所々ギシギシいってるのと、クラウスの顔色が悪い(?)のが少々気になるところ。それを差し引いても、後半の「狂乱の場」からラスト「神に向かって翼をひろげた君よ」までの二人の歌唱は見事です。サザーランドはほぼ最盛期に近いんじゃないでしょうか。クラウスも負けず劣らず円熟した気品のある演技を見せてくれます。ちなみにサザーランドの顎、これの回では(私は)それほど気になりませんでしたが、どうでしょう?(^^;
ドニゼッティ:連隊の娘 全曲
1967年7月にロンドン、キングズウェイ・ホールでの収録版です。
当時、演じていた、この“連隊の娘”のトニオ役で、彼は、キング・オブ・ハイCの威名を受けました。ハイC連発を聴いて見て下さい。すばらしいです。
ドニゼッティがテノール泣かせのように書き上げたこの音符を、難なく楽々こなし、
なおかつ、高らかに伸ばし唄う声に、感銘を受けます。
針の眼 [DVD]
連合軍の上陸作戦がノルマンディだという情報を入手したドイツ軍の超エリートスパイ(コードネーム「針」)の物語。イギリスに潜入していた「針」は故国ドイツを目差し、海上でUボートと合流するため盗んだ漁船で脱出するが、暴風雨に遭遇し、ある孤島に漂着する。そこで彼が出会ったのは、美しい人妻。彼女の夫は新婚旅行で交通事故を起こし、下半身不髄になってしまった元戦闘機パイロットだが、自分の不注意で事故を起こし、母国の危機に役に立てなくなってしまったことで精神的にゆがんでしまっている。二人の間には、ハネムーンベイビーの4〜5歳の可愛い男の子がいるが、夫が固く心を閉ざしているため、決して幸福な家庭とはいえない。小さな島で展開されるドラマはスリリングで緊張感にあふれ、衝撃のラストに観る者は驚かされる。
この作品の見どころは、頭脳明晰、格闘技が強く、しかも任務遂行のためにはお世話になった下宿屋のおかみにまで手にかけてしまう冷徹なスパイ「針」が、どのように味方のUボートと連絡をとるのか。そして、連合軍の上陸地点がノルマンディだという情報をドイツに持って帰ることができるのか、という点だが、孤島で出会った人妻が彼の心に人間的な灯火をともすことで、物語は大きく転回して行く。しかし、本当に「人間らしい心」を持っていたのは、「針」なのか、彼女なのか・・・。
SATELLITE(初回生産限定盤)(DVD付)
約1年半ぶりとなったサザーランドの2ndアルバムです。全体的に失恋の曲が多いですが、前回のアルバムと比べると曲の完成度が一段と高くなってきていてメロディの方も相当練られてます。また、1stには無かった感じの曲(ジャズ的な要素が入ってる「波風」、初のストリングス使用の「letter」「さよならだけでは」、しっとりとした感じが印象的な「スピカ」など)も有って面白いです。
ただ、1stと比べると「勢い」「がむしゃらさ」が無く、全体的におとなしい感じなので、次のアルバムでは「君となら」「gate」のような勢いと疾走感のある曲が聞きたいところです。
とはいえ、非常に良いアルバムなので興味を持たれた方はぜひチェックしてみてください!