地下鉄(メトロ)に乗って THXスタンダード・エディション [DVD]
タイムスリップものには「掟」がある。過去に行った者は、決して未来(現在のこと)を根本的に変えることをしてはならない。
浅田次郎の原作そのものがこの「掟」を堂々と破っているのだが、サスペンス的要素が強いので、読者をぐいぐい引きつける。
だから、ラストでヒロインのとった「決断」に仰天するが、この小説が「浅田次郎の父親へのオマージュ」だと気付いて納得する。
この映画は、相当「はしょって」はいるが原作に忠実に作られている。
ただ、読み返すことのできる小説と異なり、2時間で「複雑なストーリー」を理解してもらうだけでもたいへんなのに、例の「掟破り」を見せつけられたのでは、観客は大いに興ざめしてしまう。
原作を評価できる人にはおすすめである。原作を読んでなくても、浅田次郎ファンなら、少なくとも怒りは感じないであろう。それ以外の人には、残念ながら「後味の悪い映画」になる。
ほぼ、同じ時期に映画化された「椿山課長の七日間」は、原作の「少しブラックな部分」を巧みに変えて、誰にでもわかる「感動作品」に仕立てている。
こっちも、浅田次郎に直談判して、「掟破り」のところだけでも少し変えたらよかったのに。
競馬どんぶり (幻冬舎アウトロー文庫)
馬券購入に関して、異論もあるが、馬券を買う人間としては、合点の行くことが多い。
純粋に馬券を買う立場から書かれた本は意外と少ないのではないか。
馬券術の指南書がごまんとあるが、此方の方がずっと役立つように思う。
勇気凛凛ルリの色 (講談社文庫)
愉快なのですが、時に勇気を与えられ、時に胸に迫る素晴らしいエッセイです。「地下鉄に乗って」が吉川英治文学新人賞を獲得する前当たりから書き始められています。途中、オウム事件があり世相を反映しているあたり、連載エッセイの醍醐味でしょうか。開いたところから読み始めれば、ほんの数分で気分を爽快にしてくれると思います。そんな中に、山口瞳さんのことを書いた文章があります。浅田次郎さんと山口瞳さんを結ぶ一本の線は、やっぱり東京競馬場。私は山口瞳さんの大ファンでもあり、ちょっと涙ぐんでしまいました。山口さんの「男性自身」にも匹敵するシリーズかもしれません。山口さんはいつも毅然としていましたが、浅田次郎さんは近しいユーモアが添加されているように感じられます。誰が読んでも面白いと思いますが、特に40歳過ぎには納得の一冊だと思います。山口瞳のファンの方には、その一編だけでも読む価値あるかとも思います。
ま、いっか。 (集英社文庫)
浅田氏のエッセイ集はどれも非常に面白い。小説もいいがエッセイもかなりいい作家である。
自身の苦労話やその時勢に即した話がとても面白く描かれているため、いつも一気に読んでしまう。
本書は「男の本音」や「ふるさとと旅」、「ことばについて」など各ジャンル毎に章纏めされているがどの章も全く期待を外すことはない。また、面白いだけでなく、相応に教養も身に付くような気がする。
軽い話が多いのでリラックスしたい時にお薦め。
赤猫異聞
浅田次郎の久しぶりの時代小説。私も同じく書店で平積みになっているのを見つけた瞬間レジに直行していた。しかも舞台は江戸!読まない理由が見当たらない程の勢いで一気に読んでしまった。
さすがに筆の上手さ、日本語(江戸弁か?)の美しさをも堪能できる。氏のファンなら耳に聞こえてくるような文章ではないだろうか。
ストーリーは維新直後、江戸と東京が混在した時代、大火から囚人を延焼から守るためいったん町に放すというもの。軸となる人物も絞られていて、さすが!と思わずにはいられないストーリーであり、文章の上手さだった。
ただ、実直な役人・鉄火女・大器量の賭場の親分と、浅田ワールドには欠かせない人物がこれでもか!と出てくる様は、正直いってやり過ぎ感を持った。せっかくのストーリーに『えぐ味』を感じてしまうくらいに。
上記三人の登場人物、どうせなら天切り松の新ストーリーで読みたいと思う。