太陽になろうとした鵺
いいと思う。たぶんこれからも何度か車内で聴くと思う。
同乗者は、「暗いねー」と言った。 …確かにね。
「○○に似てるね」とも言った。 …確かにね。
だが、いいんじゃないか、このひっかかり。
いいんじゃないか、この暗さ。
3.11以降、公式コメントがこわばっている。ポケットティッシュみたいに微笑の仮面が配られている。
「僕は辛いんだ」「今がやるせないんだ」
当然表出するべきこういう思いが、妙に押し隠されている。
だから、私は本作に価値があると思う。
誰に似ているとか、今この人たちに気にしてほしくない。
耳あたりのいい希望を歌えとかいう声に、折れてほしくない。
今自分の精一杯を歌うこと。
それが誰に似ていようと、時世に合おうと合うまいと、どうでもいいことだ。
Syrup16g
普遍的な名盤であると思います。
道行く人たち100人に聞かせれば、そのうち98人位は
「いいですねこれ」「いいバンドだ」といってくれそうな。
「このバンド知らないけど、買ってみようかな」という人もいるでしょう。
しかし街中の100人の中には、例えば俺みたいなひねくれたシロップのファンも1人か2人いたりして、
そういった人はこの作品に難色を示すかもしれない。
例えばそれは以前と比してあまりにも洗練されすぎた音像であったり、
刺激の少なくなった歌詞であったり。
何よりこのアルバムの「普遍性」が気に入らないんだ、というのもあるでしょう。シロップってこんなんだったっけ?と。
この作品を以ってsyrup16gはその活動を終えるわけですが、この作品は過去のどの作品の系譜にも置けないと思います。
以前の代表作にはどんな静かな曲でも、裏にひそむ独特の捻れた高揚感があった。
それは日本の音楽シーンに唯一無二のフィールドを培ってきたシロップだからこその持ち味であり、ファンが惚れたのもそこなのでしょう。
しかしコレを聴いて俺が思うのは、そのシロップの軌跡そのものが、果たして五十嵐さんの意図したものだったのかな、という事です。
以前どこぞのインタビューで、「自分は別に暗い人間ではない」という趣旨の発言していたを見て苦笑したものですが、今となっては真剣に考え込んでしまう。
五十嵐隆という人間はとにかく曲が書けるし、万人に通用するポップセンスを持ち併せている。
その人間性ばかりがフォーカスされる中で、彼が純粋に音楽に生き、音楽を愛しているという点をリスナーはどの程度受け入れていたんだろう。
自らの作り上げたイメージに縛られて、自由に音を作れなくなっていたのではないか。だとすれば悲しい事です。
この作品には純粋な音楽の喜びが溢れている。これだけは確実にいえる事です。
確かに以前のようなバンドとしての生々しい主張は感じないし、歌詞もそのオリジナリティーは幾らか後退しています。
今のバンド(ではないのかな、もう)の状態を考えれば当然の成り行きでしょう。
しかしそういった点も含め、この作品を最後にシロップの歴史を終える、という事実に臨むにあたり、誰もが安心してそれを見送る事が出来るのではないのでしょうか。
引かれ気味のファンの後ろ髪をバッサリと断ち切ってくれるような達観、清清しささえ感じます。
最後にこんな作品を出す五十嵐さんはやっぱりシニカルだし、優しい人であると思いました。
バンドという形態を必要としなくなったシロップ。バンドではないシロップ。今作を言い表すのならそんな感じでしょうか。
キタダさんや中畑さんと袂を分ち、これから彼がどうするのかは(多分本人にも)分からないけど、好きにやって欲しいな。
音楽を辞めてしまってもいい。人前に一切出なくなるようでも構わない。
嫌というほど、人生を生きる上での闇について思考してきた彼だからこそ、個人の幸せを追い求めて欲しいと思う。おこがましいですけどね。
最後に。
シロップ第二期唯一の作品は名作でした。ありがとう。
3/1追記:
バイトをしながら、今日のライブのことをずっと考えてました。
私は行けませんでしたが、見た人すべての善い思い出となることを祈ります。
行きたかった・・
8/25追記:
ソロ活動開始との朗報を受けました。やはり彼にとっての幸せは音楽だったようです。
分かってはいたけど、上のレビューでは随分強がった物言いをしてますね、自分。
ホントはこの知らせを心待ちにしてました。
五十嵐さんとの音楽を通じての対話はまだ終わらない。まずそれが何より嬉しいです。
とりあえずライブを見に行くことを決めました。924に行く人、よろしく。
遅死10.10 [DVD]
この異様な雰囲気はやはりシロップ独特のもの。それが伝わってくる。
視聴しているとだんだん眠くなり幻想的な世界へ連れていかれそうになる。
音質は野音なので、あまり良くない(前作は良い)し、五十嵐氏のが枯れている(かすれているのではない)印象を受ける。
ライブなどで聴くと、ここ最近喉を傷めているように思える。少し前はそうでもなかった。ライブのしすぎか?
しかし、野音独特の空気と素晴らしい演奏力と共に奏でられる声は、本当に頭にしみ込んでくる。
水色の風なども歌われているので、やはり買いのDVD。
ただ気になるのは、編集のしつこさである。カットが異様に多く、
画面がちかちかして見にくく、ライブという臨場感にかける気がする。
次作でそれをもう少しおさえれば、作品として良くなると思う。
BLACKSOUND/BLACKHUMOR [DVD]
今年の1月に行われた渋谷AXでのライブとクリップ集の二枚組みである。
ゲストにはブッチャーズの吉村さんや細身で美形なバイオリニストが登場し、数曲では映像が映し出されそれがさらに曲の魅力を引き立てる。特に「夢」においては、映像と死に物狂いで歌う五十嵐の姿と重なって素晴らしい。‘悲しいぐらいに満たされたこの世界は 終わってくのに’という歌詞に真実味を増してくる
ただライブの完全収録ではなく、「センチメンタル」やアンコールラストの「Reborn」などが含まれていないのが残念なところである。
My Song
Reborenのように歪みのない曲でした。
「わかりあうとか信じあうとか そんなことどうだっていい」
沢山のアーティストが、最も大切な事かのように唄っていたモノをこんなふうに唄いのけるシロップさんは既成概念を振り切る事のできた貴重なアーティストだと感じます。