夜になるまえに [DVD]
主演のハビエル・バルデムが、アカデミー主演男優賞候補になり話題になった作品。
時代は、キューバ革命前から描かれる。
同性愛の作家が、カストロ政権下で迫害と弾圧を受けつつ、自由を求めて亡命する。
自由って何だろう?と考えさせられた作品だが、決して重くはない。
人が人を思う気持ちは止められないもの。
肉体は滅びても、思想は滅びないもの。
共演者として、J・デップが二役で登場するのが見所。
取り調べを行う軍服姿が凛々しい美形の将校、あっと驚くような女装のボンボンちゃん。
J・デップの美しさを再確認できるような二役だった。
無修正でオヤっと驚くような水中シーンあり。
浜辺で語られる「ゲイ」の種類のうんちくが面白い。
万人受けは難しそうだが、J・デップファンを含め一見の価値がありそうな作品。
キューバ革命、カストロ政権をちょっと違う角度から捉えていて、興味深い。
「自由」を求めた末に得たものは・・皮肉。
夜になるまえに
「キューバのブルジョワは、黒人の出であるバティスタを嫌い、イエズス会の学校で学びスペイン人農場主の息子であるカストロを支持した」(P.72)
「決起した人々の大半はバティスタ独裁があれほど速く崩壊するとは思っていなかった。バティスタが出国したというニュースが広まったとき、ぼくたちの多くは信じなかった。カストロ自身でさえびっくりして飛び上がった人間の一人だった。戦わないうちに戦いに勝ってしまった。カストロはもっとバティスタに感謝しなくてはならなかったのだ。独裁者は島を無傷のまま残し、カストロに傷一つ負わさずに出国したのだから」(P.78)
「ゲバラのスキャンダラスなホモ生活はキューバ中で、特にハバナでは衆知のことだが、他の者なら高くつくことはあっても、ゲバラほどの人物ともなると何をしても責任を問われなかった」(P.120)
「単に政治的姿勢のせいでボルヘスはノーベル文学賞を阻止されたのだ。ボルヘスは今世紀の最も重要なラテンアメリカの作家の一人である。たぶんいちばん重要な作家である。だが、ノーベル賞はフォークナーの模倣、カストロの個人的な友人、生まれながらの日和見主義者であるガブリエル・ガルシア=マルケスに与えられた。その作品はいくつか美点がないわけではないが、安物の人民主義が浸透しており、忘却の内に死んだり軽視されたりしてきた偉大な作家たちの高みには達していない」(P.390)
夜になるまえに [DVD]
~信じられない程の美しい海、空、森、自然を持つキューバで、かつてこんな革命があったなんてなあ。。。。人間の歴史ってすごいなあ。。。黙祷。
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レイナルドは何故執筆するのか、に対し「復讐だ」と言い、同性愛は「武器」だと言った。母の懐よりも「自由に対する誇り」という苦難の道を選んだ彼の死に様までも、とても美しかった。崇高な感じがした。実際のレイナルドは知らないけれど、素敵に描かれていると思う。それぞれ一つ一つの場面場面が全て美しく、印象的な映像に構成されていて、時折添えられ~~る詩の表現力にも感動できる。
ショーン・ペンと、さすがジョニー・デップの名演技!が観れるのもかなりオイシイと思います。~
夜になるまえに―ある亡命者の回想 (文学の冒険シリーズ)
キューバが生んだ天才作家の傑作自叙伝。
J.シュナーベル監督、J.バルデム主演で映画化もされた。
実父が出奔し極貧に育つが、カストロ率いる革命政府の奨学金で学問を学ぶ。
しかしその救いの政府は、アレナスの同性愛嗜好を理由に迫害に転ずる。
マチズムに囚われた政府当局に何度も牢獄にぶちこまれながらも、
あらゆる「途方もない性的冒険」を繰り返しつつ逃げ延びるアレナス。
そうした逃亡生活でも「夜になる前に」公園の茂みで書き綴らねばならない。
いいようのない悲哀。だがそこには豊かで強靭なユーモアがある。
あまりにも純粋な性=生への渇望。だから生き続けられる。
マリエル港事件で難民のうねりとともに米国に逃れはした。
しかし「自由の国」にアレナスの求める自由は果たして存在したのか。
最も憎んだ父=フィデルが統べる祖国。
離れて味わうキューバ的性=生の喪失。
そしてエイズの発症と絶望と自死。
濃厚なる性的生を生きるのに不可欠な肉体の衰滅。
それが、このピカレスク的自伝の主人公にとっての悲哀だったのか。
BIUTIFUL ビューティフル [DVD]
2010年に、メキシコ、スペインで共同制作された本作品は、余命僅かの男の残された日々を描く、佳作。
スペイン・バルセロナに暮らすウスバルは、別れた妻との間に生まれた姉弟を引き取り、生活のために、不法な仕事もこなす日々であった。
そんな彼に下ったのは、癌による余命二ヵ月の宣告だった…。
主人公が40代の成人男性ということもあり、激情に駆られた哀しみと言う表現ではなく、自分の人生で長い間持っていた「わだかまり」をどのように整理していくか、という視点で、残された時間に冷静に対処していく姿が印象的な作品です。
作品中には、いくつか象徴的な事象があり、これからご覧になる方の参考として綴ってみます。
【BIUTIFULとは?】
タイトルを観て、綴りが誤っている、と思った方も多いのでは。
私は、スペイン語の綴りか、とも思ったのですが、邦題は、アルファベットとカタカナの並記になっていることから、この綴りには何か意味がありそうです…
【若い男】
冒頭、主人公が雪の降る林の中で、若い男と会話するシーンがあります。
この男は誰?
やがて、主人公は思わぬ形で、その男に遭遇するのですが…
【2つの「…」】
時折、部屋の天井が映るシーンで、見間違いか、と思われる「…」が目に映ります。
また、主人公が人を抱き締めるシーンで、聞き違いかと思われる「…」が耳に届きます。
それは、同じようなシーンで次第にはっきりとしてくるのですが…
最後に、――本作品は余命僅か、と言うことで「死」をテーマとした作品と言えますが、同時に「生」をテーマにしているとも言えましょう。
本作品が、生み出されるきっかけとなった、末期癌に侵された男を描いた黒澤明監督の映画のタイトルは「生きる」ですから。