田中角栄流「生き抜くための智恵」全伝授 (ロング新書)
マスメディアは田中角栄総理大臣の誕生を喝采で迎えたが、最後は石持て追い払った。稀代の総理であっただけに残念である。昨今、日本社会が息苦しくなっているのは、理屈を述べ、利ばかり求め、人間の本心をおざなりにしたり、「徳」を無視するようになったからではないのか。
その点、角栄は人間の本質を見抜き、いかがわしい政治の世界を泳ぎ切ったのだった。この本は角栄がどのように人を動かし、政局を乗り切っていったかを具体的例を挙げて語っている。
普通の人々が天才政治家の角栄のように行動できるとは思えないが、建前ばかりを並べたて、責任を逃れようとする人間が蔓延る中で、人間の本音を見抜き、損を覚悟で果敢に行動する人が組織には必ずいることを期待させてくれる。
なんでもアメリカナイズされるのではなく、日本人の価値観に貫かれ、居心地がよくて能力が発揮できる、日本人のための組織を作っていきたいものだ。
田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像 (中公新書)
田中角栄が亡くなってから約20年だが、彼の功罪はいまだに多くの人々の記憶には残っているだろう。彼は実に人間的であった。
本書は、田中角栄・人物伝である。著者はロッキード事件で失墜した角栄を最期まで追い続けた番記者・早野透。新潟の貧村に生まれ、高等小学校卒という学歴で、上京、軍隊生活を経て戦後、神楽坂から政治家としてのデヴューを果たす。豪雪地帯の”新潟3区”と言う地盤、2人の女、角福戦争・・・そして、首相。戦後の日本政治の体現者としての生涯は異色だが能力があり魅力さえ感じた人も多いはずだ。政界の流れから外されてから最期までの姿には、さすがに栄光と蹉跌を感ずる。しかし、近年言われている”ロッキード事件の冤罪説“が本当だとしても、角栄はしてやられたのである。
新書版としては要所を掴んでおり好い出来であると思う。
異形の将軍―田中角栄の生涯〈上〉 (幻冬舎文庫)
角栄についてロッキード以降の印象しかなかった私にとっては、
高度成長時代の(習わなかった)歴史を知るのに面白く有益な本だった。
卓越した実務能力、事実の重視、合理性、政策の具体性、スピード、
ビジョン(「政治家はアイデア・マンでなければ」)、誠意、優しさ。
経営者にも当てはまるリーダーシップの条件だろう。何よりも使命感。
美化しすぎ? とも思うが、これまでの評価が不当にすぎたのかもしれない。
いずれにしても彼が稀有な政治家であったことは間違いない。
ただロッキード事件の真相については含みを持たせるだけではなく、
もっと厳しく事実を追求するなり結論をだすなりしてほしかった。